第15話

 シャンプー台に寝かされ、所在ない山田は腹の上で組んだ指をもじもじと動かしていた。顔にシートを乗せられ、鼻息で飛ばないか気になって、息を潜める。


「熱くないですか?」


「は、はい!」声が裏返ってしまった。恥ずかしい。すごく恥ずかしい。


「初めてですか?緊張しますよね」


「は、はい……」


 リュウジの細い指が優しくマッサージするように動く。泡と一緒に自分も溶け落ちてしまうのではないかと思う。






 気がつくとシャンプーは終わっていた。あまりの心地よさに眠ってしまった。イビキをかいていなかったか気になるほど熟睡した。


 ブースに戻り、カットしながらリュウジが言う。


「カットが済んだら、顔剃りしましょうか?僕、理容の免許もあるんです」


「あ、はいお願いします」


 細く長い指で髪をさばき、軽やかにカットしてゆく。鏡越しに目が合うと照れ臭いので、雑誌を読むフリをする。雑誌で隠れながら、チラチラとリュウジの指先や顔を盗み見る。中性的な美しさを持つリュウジから目が離せなかった。会話はなかった。山田が会話するのが苦手なことを読み取り、無駄な話はしないところが、リュウジがトップスタイリストとして支持される理由の一つだ。




 カットが終わり、顔剃りに入る。

 目元に蒸しタオルを乗せ、温かく滑らかな泡を筆で乗せる──首筋に。


 あっ…あぁっ…そ、そんなに筆でサワサワするんだっけ?


 泡をたっぷり含んだ柔らかい筆先が、山田の首筋を撫でる。


 筆先が舐めるように何度も上下する。……はっあっはうっ…いつもの散髪屋ではそんなことしなかったのに!

 視覚を奪われている分、普段より敏感になっている。筆先が首筋をゆっくりとなぞる度、ピクピクと体が反応してしまう。


 あっ、あぁ、やめて……はっあっ……

 アーーーーーッ!


 山田の体が大きく跳ねた。



「動くと危ないですよ」


 耳元でリュウジが囁いた。


 わざとだ!わざとやってる!

 山田は辱しめられた悔しさと、裏腹に沸き上がる快感に涙目になりながら耐える。


「ふふっ、可愛いな。アゴに梅干し作らないで。剃れないから」


 そのまま、リュウジはおもむろに山田の上に股がった。


 ??!!!


 筆で攻められ敏感になった体は、カミソリにも反応してしまう。


「は、はうっ」


 首筋にカミソリを当てられ、見えない縄で縛られた山田はリュウジのなすがままだった。ぴったり密着しながら、舐めるように顔や耳回りを丁寧に剃ってゆく。


 リュウジは細く重くはないけれど、密着した部分にしっかりとした存在感を感じる。熱い吐息が耳にかかる度、イケナイと思いつつ裏腹に膨らんでしまう。


イケナイ、こんなことはイケナイ……

あっ、ああっ……


山田の中で何かが芽生えそうな感触をリュウジはしっかり掴んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る