第8話
音楽を聞きながらスーパーで買い物中、リリーからLINEが入った。
『お疲れ様です。来週、山田さんの弟さんが来るの? 一応、会うのは原則1対1なんだけど、山田さんは常連さんだし私もよく知ってるからokしました。大丈夫かしら?』
『はい、大丈夫です』
『何もないとは思うけど、念のため彼に待機していてもらいます』
『ありがとうございます。 宜しくお願いします』
彼とは、リリーのパートナーのことだ。花は少し前に偶然出会っていた。
いつかのオープンカフェ
日差しが少し夏の訪れを感じさせるけれど、風は乾いていて気持ちがいい。こんな日はオープンカフェでお茶でも飲みたいと買い物の休憩に寄ると、偶然にもリリーがいた。
「偶然ね! いつもLINEしてるから久しぶりな感じがしないわね」
「ほんと」ふふ、とお互い顔を合わせて笑う。リリーが食べていたスイーツがおいしそうで、花も同じものを頼む。リリーとは本当に同年代の女友達の感覚で付き合える。
「私、待ち合わせなのよ」
リリーがゴツゴツとした大きな手で、アイスティーをストローでかき混ぜながら嬉しそうに言った。
「お仕事じゃなくて?」
「うん、デート」
やっぱり。どうりで嬉しそうだと思った。
顔はおじさんだけど、少し頬を赤らめた表情はすっかり乙女だった。リリーはそういうところがとてもチャーミングだ。
「あらぁ、いいな~」
デートか……そんな感覚は随分昔に忘れてしまっていたけれど、山田の依頼を受けて疑似デートをするような感覚を覚えた。仕事だと割り切る気持ちと、浮わついてしまう気持ちが入り交じる。だからと言って、夫が嫌になっている訳でもない。夫のことは愛している。
「ねぇ、花ちゃん。お仕事のほうはどう?何か困ったことはない?」
「はい、今のところ楽しく働けています」
「そう、良かった。花ちゃんは評判良いから、働ける日数を増やして貰えるとありがたいんだけど……」
「そうですか、考えてみます」
「お願いね」さらりとウィンクを飛ばす。
「あっ、来たわ。彼、紹介しておくわね」
すらりとしたグッドルッキングガイが爽やかな笑顔でこちらにやって来る。
「この人、私のパートナーよ」
「はじめまして、ケイです」
「は、はじめまして、花です」
緊張してしまうくらい完璧なイケメンだ。
今まで出会ったイケメンの中でもトップクラス。ゲイの男性はどうしてこんなに美しいのだろう。
「花ちゃんはうちのエースなの。ケイは格闘技の元チャンピオンで、うちの用心棒よ。普段はモデルもやってるの」
そうですよね、モデルでないと納得できません。
「よろしく」白い歯がまぶしかった。
「何もないとは思うけど、レンタル中もしもの時は彼が駆けつけますから」
彼が来てくれたなら、だいたいのことはカタがつきそうだ。
「じゃあね」
リリーが嬉しそうに手をふり店を出る。
歩き去る二人の背中を見送っていると、ケイが車道側を歩くリリーをそっと内側へエスコートするのが見えた。
山田はいつもよりソワソワと花を待っていた。リツは隣でスマホを弄っている。
「なぁ、余計なことは言うなよ」
「余計なことって何?」
「それは……俺にとってマイナスなこと」
弟の前では俺と言う兄の小さなプライド。
「あのさ、気に入られたいの?」
「そ、そうじゃないけど……」
山田は俯いていつものようにモジモジする。
「ハイ、そういうのがダメ。悪い女だったらどうすんの?もっと冷静になって」
「花さんはそんな人じゃない!」
百戦錬磨のリツには女性の性善説なんてとっくの昔に消え去っているが、これからの山田にはまだ聖なるものらしい。そこが危ないんだって。
「失礼します」
襖が開き、花が入ってきた。
三人のランチが始まる。
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