第15話 転生者の影


 シェイズ伯爵領は王都から離れてはいるものの、豊かな自然と活気あふれる街を数多く有している。税収も良く街の治安も他の領地に比べればそれなりに安全な方だと言えるだろう。

 そんな領地の片隅にヤンバーナ男爵の屋敷はある。

 妻に先立たれて悲しみにくれる当主のハリス・ヤンバーナはマーガレットの唯一の忘れ形見である娘を溺愛している。

 そしてその娘であるアリス・ヤンバーナは愛らしいはずの顔を歪めて高熱によってここ数日魘されていた。

 先日池に落ちて溺れかけたアリスはその後見事に風邪を引いて現在に至る。

 だがその熱も次第に収まってきたのか苦しげな顔も落ち着いてきたように見える。

 そして張り付いた黒髪を鬱陶しげに払うとゆっくりと目を覚ました。


「ここは?」


 気だるげな体を起こして自らの部屋を確認する。

 そして、ここ数日頭がパンクするかと思うような痛みに耐えた彼女はゆっくりと自分の状況を確認する。


「私はアリス・ヤンバーナ。そして夢に見たあれは私の前世?」


 アリスは夢でかつての自分の姿を思い出した。

 若くして命を落としたがこうして新たに転生する事が出来た事に喜びを覚える。


「それもゲームの主人公じゃないの。」


 彼女が前世で何度もプレイした乙女ゲームのスチルの数々が脳裏を巡る。

 そのゲームの内容を思い出そうとしたが、なぜか全てを思い出す事は出来なかった。

 だが、ある程度の情報は覚えている。

 そう、タイトルは確か『恋愛シミュレーションRPG 恋して世界の救世主』だったはず。


 恋して世界の救世主。


 略して恋球(こいすく)は恋愛シミュレーションRPGである。


 ラジェット学園に通う主人公[アリス・ヤンバーナ(名前変更可能)]男爵令嬢は光魔法に適性のある女の子。

 共に通う素敵な男の子とイベントを通じて心を通わせていく。

 そんなありきたりなゲームだが、流麗なスチルと惚れ惚れするような豪華声優人が名を連ね何度もCMが流れるほど知名度も高かった。

 ゲームの内容はラジェット学院で卒業まであと1年となった頃、世界中で魔族による被害が続出し始めた。

 強力な光属性の使い手である主人公は、魔族から国を、そして世界を守るために立ち上がる。恋愛要素もある為戦いに赴く仲間とその中から恋人と成った人物を連れて世界中を旅して回る。

 そして敵の魔族と対峙して迷宮深くにある世界の楔を守り抜くことで世界の平穏は保たれる。攻略対象シークレット含む全6名だったはず。


「えっと確か攻略対象は…。」


 6名の攻略対象の情報を紙に書き写していく。そして自分の好きなセリフも一緒に。


 ■レオナード・フォン・ラジェット

 ラジェット王国第1王子、容姿端麗、金の髪に青い瞳。絵に描いたような王子様。

 背は高めで物腰も柔らかく完璧に見えるが、実は見せかけ。

 鋭い洞察眼で相手を観察して裏で何を考えているのか読めない。

 仲良くなると、遠慮ない物言いになるが常に線引きは忘れない。

 権力目当てで集まってくる有象無象に嫌気がさしている。

 健気で純真爛漫な主人公の姿を見て、その目新しさに気になっていく。

 王族という権力に媚びずにはっきりものを言う主人公に次第に恋に落ちる。


 『本気で私のことを心配して怒ってくれたのは君が初めてだから…』

 属性:光

 婚約者:オルビア・クレスト侯爵令嬢


 ■アルバート・クレスト

 クレスト侯爵家時期当主、父の強さに憧れ王宮護衛騎士団を目指している。

 赤い髪をするりと伸ばし、後ろで纏めている。眼の色は緑。

 普段はお兄ちゃん風を吹かせているが、意外と抜けているところがある。

 美しく鍛え上げられた筋肉と大柄な体躯。

 周りの人間曰く、剣を握らせれば、人が変わるらしい。

 小さい頃から剣を持ち鍛錬を続けてきてはいるが、なかなか父に追いつけないと焦ってきている。

 周囲からは権力でその地位にように見られているが、本人はかなりの努力家。

 その努力に気が付き、応援してくれる主人公に癒され、最初は兄のように見ていたが次第に自分の気持ちに気が付く。


 『君だけは俺自身の力を認めてくれた、それが何よりも嬉しかったんだ』

 属性:火

 婚約者:シェリル・ラジェット・メジエル第1王女


 ■フィルシーク・シェイズ

 シェイズ伯爵家の養子として引き取られた淡い茶色の髪に緑色の瞳をもつ。

 つい見る人を引き付けてしまう美貌の青年。

 ラジェット学園に留学してきたイルガーナ王国第2皇子により行方不明中の第3皇子だということ発覚する。

 物静かな性格で本を読むのが好き。

 常に周りと壁を作って自分に近づけさせないオーラを纏っている。

 12歳の頃に起こした魔力暴走で、大切な女の子であるエスティアを失ってしまったトラウマがあり、魔術に苦手意識がある。

 それでも家族として扱ってくれるシェイズ伯爵家に感謝をしている反面、申し訳なさが強く周囲と壁を作ってしまう。

 本を読むのに部屋にこもりがちな自分を部屋から引きずり出す主人公の明るく強気な態度に救われ、次第に恋していく。


 『僕はずっと諦めていたんだ、彼女の命を奪った償いをしたくて…でも君はいつも太陽みたいに僕を照らしてくれる』

 属性:風

 婚約者:なし 縁談は全て断っている。


 ■フレッド・シーザス

 ラジェット学園の魔法科講師。

 また自身は魔道具職人でもあるため、様々な魔道具を自作して研究している。

 茶色の髪で肩にかかる髪をくくっている。瞳の色は赤み掛かった茶色。

 なぜかふと庇護欲が湧いてしまうとの女性談。

 授業はかなり分かりやすいと好評で放課後にも押しかける生徒がいるとかいないとか。

 大切な姉サラをシェイズ伯爵家に殺されているため、憎んでいるがその反面、自分を助けるために伯爵家の令嬢を魔力暴走に巻き込んだことを知るため、気持ちが整理できないまま過ごしている。

 女性を見ると姉のことを思い出してしまうため、目を合わせるのが苦手ではあるが、つい何にでも興味を持つ主人公から目が離せない。


 『君を見ていると危なっかしくて…小さい頃の姉を見ているようで心配なんだ』

 属性:土

 婚約者:なし


 ■ザスティン・ルステリア・グレース(隠しキャラ)

 旧ルステリア王国第1皇子で国を奪ったラジェット王国を恨んでいる。

 暗殺者としての訓練を受け復讐を生きる糧としている。

 ラジェット王国の王子を誘拐し絶望した国王暗殺を狙うが失敗し幽閉される。

 青い髪に紫の瞳を持つ。魅了眼を使って生きるために何でもしてきた。

 ラジェット王国の王子誘拐の時に、たまたま馬車で通り掛って誘拐現場を見てしまった主人公。

 その為口封じとして一緒に誘拐してしまう。

 自身と近い年齢のせいか、傷をつけることもなく牢に入れていたが、王宮の優秀な追っ手によって隠れ家を暴かれ捕縛されてしまう。

 捕まるときに庇ってくれた少女のことが忘れられず、幽閉されてもなお想いつづけた。

 魅了眼で牢から逃げだし、少女を探し始める。


 『命のやり取りをしながら生きてきた。庇ってもらったのが忘れられなくて君を追いかけてしまったんだ』

 属性:水

 婚約者:なし


 ■ルフェルス・サタベル(隠しキャラ2)

 魔王。幼いころに家族を家臣に毒殺され、何も知らないまま過激派魔族筆頭のカルタロフに育てられた。

 人間を憎み、世界を魔族の国に染めることで安寧をもたらそうとしている。

 強大な魔力と精神力を持ち、逆らうものを許さない冷酷無比な性格。

 長い黒髪にルビーのような瞳、青白い肌で常に闇の魔力を纏っている。

 あまりに強い力を生まれた時から持っていたため、周囲に畏れられている。

 人間を憎むように育てられたため、破壊しかできない。

 大抵の者はすぐに壊れる。

 それでも恐れず立ち向かってくる主人公が気になっている。


 『なぜお前は諦めずに向かってくるのだ!っ我が…恐ろしくはないのか』

 属性:闇

 ※隠しキャラはラジェット学園で他キャラの好感度を一定に保つことで攻略可能となる

 ※隠しキャラ2はハーレムエンドを迎えた場合のみ攻略可能となる(注)パーティは攻略メンバーのみで組むことが条件


 こうして書き出したが、大切な事に気が付く。

 攻略するためのルートを全く覚えて居なかったのだ。本当にゲームの世界なのかを知りたくなったアリスは父親に一つのお願いをする。


 それが過大に解釈されて厄介な事態を引き起こし、ゲームを完全に崩壊させてしまう事になるとは思いもしないで。

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