第12話 魔力判定
目覚めた日から1年。
恐ろしいリハビリの毎日を過ごし介助があればなんとか立ったり手を動かしたりよろよろと歩くことができるようになってきた。若いって素晴らしいね。
当然動く為の訓練だけじゃなく、マナーレッスンに始まり言葉や文字や計算などのお勉強も始まった。最近では本も一人で読めるようになってきた。
これはアカシックレコードなしで読めるようになったという意味だけどここまで来るのは長かった。ため息をつきそうなほど忙しい毎日。
今まで10年も寝ていたのだから仕方が無いけど。
ただ本を読むスピードや文字などはあらかじめ訓練していたから覚えるのはすぐだったのが唯一の救い。体は未だに思うようには動かせない。
ちなみに魔力を使って体の補佐をすると普通の人みたいに生活できるのだけど、それは私自身の筋力トレーニングにはならないので控えている。
それに魔法を使えるのもまだ知られてはいけないと思うし。
そんな日々を過ごしていたある日、父さまから私を魔力判定の為に王都の教会に連れて行くと告げられた。本来なら5歳くらいで終わらせているものなのだけれど、私はずっと眠っていたので出来なかったそうだ。
ただ、父さまは何か懸念があるのかすごく言い辛そうな表情をしていた。馬車に揺られて王都へと向かう。はじめての馬車の旅だ。ゆっくりと私を気遣って進んでいる。
母さまは家の事を任されて今回はお留守番だ。外の景色を楽しみながら始めての旅を堪能する。
「ほらエスティア、王都が見えてきたぞ!」
父の言葉に王都の街を馬車から眺める。まるで要塞のような城塞都市。
離れているのに遠くにお城が大きく見えている。白亜の宮殿よろしく町を包むように防衛のための巨大な壁が町を覆う。
ラジェット王国それはシルフィール大陸に近く温暖な気候で農業・畜産・漁業とどれもがバランスの良く取り入れられている。
建国者であり初代国王ラジェットはかつて魔王討伐に乗り出した勇者の仲間であったと言われている。現在は14世代である。
今も国宝として勇者のパーティであった初代国王の使ったとされるユクドラシルの弓が受け継がれており、厳重に保管されている。
なお、矢は既に失われており、実は魔法の弓で矢は魔力で放つのだという一説がある。しかしそれを試したものはいないという。
王都に向かう馬車の行列に並んで王都に着いたのは街から出て2月も経った頃のこと。家はかなり辺境にあったらしい。
それに加えて私の為にかなりゆっくりと進んだものだからこんな時間がかかったのだが。王都は流石というほど人が多い。
初めて見る大勢の人と街の様子。馬車から身を乗り出しそうな勢いの私を父さまが苦笑して椅子に座らせる。
今日は宿に止まって明日の朝に教会で調べて貰うそうだ。その日は馬車の旅に疲れたのか宿で食事とお風呂を済ませるとゆっくりとベッドに横になった。夜中に目が覚める事もなく朝になる。余程馬車での旅は疲れていたらしい。
ガタゴトと舗装されていない道なき道だから道中は大変だった。その事を思い出しながらも今日も教会まで馬車での移動だ。
教会は王都にあるだけあってかなり年季が入った建物に見えた。質素なのに重厚感があり歴史を感じさせる建物だ。
礼拝堂を通り抜けて検査のための施設に通される。
ここでは5歳になる子供たちが魔力の検査をしに訪れる場所なのだが、私は12歳。目立つので個室での検査をしてくれるようになっている。
シスターが機材を部屋の中に持ち込んでくる。よく分からない機材だが、アカシックレコードによると魔力の属性と魔力量を調べるためのものらしい。ちなみに魔力の属性は大抵が瞳の色と同じになる傾向が強い。
本来なら青い瞳を持つ私は水属性なのだが、それは魂に色がついて居ないことで無色透明つまり属性事態が無い事になっている。
どのように判定されるのだろう?首を傾げて見ていると早速計測するのか丸い玉のような石に手を置くように言われる。
言われた通りにしていると、色に変化が無い事でシスターも首を傾げる。
そして魔力量のメーターの所を見ると、針が振り切っている…。これってどういうことだろうね。
単純に魔力は多いけど属性はないよと判断されるのだろうか。首を傾げているとシスターが慌てて部屋から飛び出して行った。
大事の予感が私の中で膨れ上がる。案の定、父さまが別室に連れて行かれて何かしらの説明を受けてきた。
憔悴したような父さまの目を見てなぜだかジワリと涙が目に溜まる。
「あぁ、ティア泣かないでおくれ。これから宿に戻ったらすぐ私は出かけなければならなくなった。」
「父さま、私どうなるの?」
「ティア、どうか悲しまないでくれ。魔力は多かったのだが、属性が出なかった。ティアは属性魔法が使えないと言われたよ。」
「………。」
属性魔法が使えない。つまり実質的に魔力量しか能がないので魔法は使えないと宣告されたようなものだ。
魔法陣なら使えるけど改めてそう告げられるとなんだか切ない。父は私をそっと抱きしめてくれた。
宿に戻って窓から王都の街並みを観察する。人の波が途絶えることなく続いている。どれだけの人がこの街に住んでいるのだろう。
サラさんは父に買い付けのリストを渡されて先程宿を出て行った。お土産とか色々王都にせっかく来たのでまとめて購入するらしい。
サラさんを見送って私はやる事がなくなりぼんやりとしていた。
ふと、悪戯心が沸いてきて魔力を体に纏って補助すると思い切って転移した。
――――…
城に向かって結果を報告するためともう一つの問題を片付けるため国王の執務室へと呼ばれたアルナスはソファーに座って国王ととある面談をしていた。
ガドウィン・ラジェット・メジエル。ふわりと柔らかな金の髪に真紅の赤い瞳を持ち若くして国王となった彼は弟と共に国を栄えさせてきた。
弟が隣国へと婿に入り協力関係を結びながら盛り立てて行く手腕は歴史に残る名君だと囁かれている。
「それで、娘の結果はどうだったのだ?」
「はっ!それが、魔力の属性が現れず、魔力量だけが多く示されました。」
「つまり、魔法は使えないという事か。」
「はい。」
「分かって居るだろうが、貴族として伯爵位を継ぐには魔法は必須だ。娘に魔法が使えなければ子を新たに儲けるか、養子を取るしか無い。」
「分かっております。ただ少しだけ時間を頂きたい。」
悔しげに歪むアルナスの表情。基本的に貴族の爵位を継ぐのは男と決まっている。
ただ、女しか生まれなかった場合は婿を向かえるか、養子を向かえるかが必要になってくる。
しかし娘のエスティアは長い間眠っており魔力判定を受けることができないままだった。
その上、エスティアが眠りについたショックで妻と子を成すも、すべて流れてしまったのだ。新たな子は望めそうに無い。
アルナスが取れるのはもはや養子を向かえることくらいだ。
分かっていてもすぐにはその決断はできない。
「妻の説得も必要ですし、子も授からないとは限りませんから。」
「それもそうだな。」
エスティアは魔法が使えない。
これを妻に告げるのが今から億劫なアルナスだ。
とても平静でいられるとは思えないからだ。妻がどのように受け止めるのか、もしかしたらそうかもしれないとは思っていたが、こうして結果が出てしまった以上告げないという手段は取れない。
本来なら幼い頃に魔力爆発を起こして魔力の発現を示すはずの時期にエスティアは眠りについてしまった。
その事で魔力が使え無い可能性がアルナスの頭の片隅にはあったのだ。
だが、それが事実だと認めたく無い気持ちもある。
魔法が使えたなら娘に婿を宛がうだけで十分だったのだが仕方が無い。
そして魔法が使えないエスティアの将来を考えるとどうしたものかと頭を悩ませてしまう。政略結婚は当たり前の貴族ではあるが、アルナスはリリーと恋愛をした上で結ばれた。
できれば政治的な思惑とは無縁のままエスティアが望むように自由にさせたかったのだが、それさえも難しいかもしれないとアルナスは考える。
貴族には力が必要だ。魔力量のみを目的とした結婚になってしまうかもしれない。
アルナスはエスティアの将来を考えて目を伏せた。
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