第10話 過激派の魔族
かつて失われた時代があった。
いまや歴史にさえ残されて居ないとされるこの時代に召喚され魔王討伐に乗り出した光の勇者ヒジリ。
彼はこの大陸に渡って魔族を目の当たりにして初めて今まで国に言われるまま過ごしてきた為に疑問にも思わなかった事に気付いてしまった。
それは、勇者ヒジリがチキュウのニホンという土地から来た高レベルの教育を受けた人間だったからだと魔王国では伝えられている。何に気が付いたのか。
それは地球でも決して無くならない人種差別の問題だった。
彼は自分をコウコウセイでただの学者の卵みたいなものだと言っていた。
だからこそ、この魔族達の住む場所に来て聖なる国の闇に気付いてしまったのだ。かの国は偶に生まれてくる白い肌、白い髪、赤い瞳を持つものを魔族と称し、差別していた事を知ってしまった。
そしてその差別されている人々全員が、ずば抜けて高い魔力をもった者であった事を。
そして、その特異性から国の端から端へと追いやられ、時には生まれてすぐに殺されていった事実を知った。
そして、魔王と称する者が自分たちの生きる道を探して、この過酷な大地に逃げ延び、力をつけていたことを知った。
彼らの容姿を実際に見て、彼らの生活に触れた光の勇者は魔王と話し合いをして、聖なる国であるルイン王国に対して差別を撤廃するように求めることを同意したのだ。
かくして魔王と勇者は手を組み、ルイン王国の国王との話し合いに臨むことになったが、それは決して受け入れられる事はなかった。
逆にルイン王国の国王は勇者を取り押さえ、隷属魔法をかけようとしてきた時点で話し合いは決裂。勇者はこれに抵抗した。
謀反だと国王は無実の勇者を殺そうと動いたが、国で最も強い力を持っていた勇者に敵うわけもなく、国王は自身のもつ最強の魔法を打ち出すしかなかった。国を守るために。
その魔法は『メギド』自らの命と引き換えの灼熱の魔法。国を守ると言う気持ちと相反する魔法を使用したのは焦っていたからなのか。
強力な炎が国を飲み込もうとした時、勇者は力の限りで国に住む全ての人々を亜空間に保護した。
しかし自らは転移で逃げる間もなく、必死に魔法に耐えるしかなかった。
後に残ったのはぼろぼろの勇者と焼けた大地。見渡す限り何も無くなってしまった。勇者が亜空間から人々を解放して力尽き、多くの国の民はそれを悲しんだ。
焼けた大地の中、あまりの惨状を嘆いた神が大地を緑あふれる土地に変え地形を変えた。
勇者が亡くなった場所からは聖なる水が湧き出てきた。
そしてこうした事態を引き起こした人々から、過去の記憶や歴史、いくつかのスキル、魔道具の知識などを代償として消し去ったのだ。
同じ過ちを再び起こさないようにとの神の配慮でもあった。
真っ新になった大地、そして人々は新天地を求め旅立っていく。
それを先導していったのは勇者のパーティであった英雄たち。それぞれが王として立っていった。
ルイン王国の王女はこの時、パーティの一員として共に旅に出ており、また勇者の子を身篭っていたという。
そしてできたのが4つの王国。王女は生まれた皇子の名をハルジオンとし、国の名とした。そして勇者のパーティであった3名の英雄もまたそれぞれの名を国につけ、民を守り、平和な国を築いた。
これは過去の歴史で人族に忘れられた真実。
その事実は未だ魔族子孫に語り継がれてきた。
そして迫害の歴史を知る者たちの中には当然人族に対して怒りを持つものも現れる。長い歴史の中、それは過激派と呼ばれその怒りを実行に移す者たちをも生み出した。
今の魔王は穏健派だ。
だからこそ人族は魔族の影を気にせずに平和な暮らしを維持している。
だが、それは表立って出てこないだけで、過激派の魔族による崩壊の序曲はすでにはじまっていた。魔王城のとある一角の部屋で二人の人物が向かい合っている。
「くくっ、ルステリア王国の崩壊作戦は見事に上手く言ったな。」
「はいカルタロフ様の目論見通りとなりました。今はアルザナ王国としてラジェット王国の王弟が元ルステリア王国の王女を妻にして国を支えているそうですが。」
「人族はしぶといな。せっかく国を崩壊させてもすぐにこうして国を建てる。」
「やはり根絶やしにせねば魔族の悲願は達する事はできません。」
「だが、根絶やしは大変だ。魔族による支配を広げる事。それもまた一つの道よ。」
「裏で国を操り人々を支配する。正に魔族の鑑のような考えですね。」
「魔王様もそれを望んでおられる。例の件しっかりと準備を怠るなよバロン。」
「はっ!勿論でございます。」
目を輝かせてバロンと呼ばれた男はすぐに身を翻した。
目的のために動き出す。
それを見届けてカルタロフはにやりと口角を上げて笑った。
「魔王様も望んでおられるか。この言葉を信じて疑わぬ愚かな男よ。だが、それも今夜までの事。この先は私の言葉が真実となる。もはや今の魔王に用は無い。」
先日もカルタロフは魔王であるアレイスター陛下に人族の住む大地への侵攻を進言して来た。だが、平和を望むアレイスター陛下がそれを望む事は無い。
これまでもずっと進言し続けてきたカルタロフはとうとう我慢の限界に来ていたのだ。
カルタロフの一族は好戦的で知られている。
なによりも人族を憎み、かつて失った大地を取り戻すことを夢見ている。そんな一族の中ずっと育てられてきた。
だからこそ、カルタロフは人族を恨むのが当然のことで、その大地を奪うのもまた当然の事なのだ。平和なんて望んで人族に追われたままの魔族など魔族なんて認めない。
そして、目的の為にカルタロフは計画を練ってきた。次期魔王の候補である二人の中、すでに人族に興味を示し好ましく思っているルビーではなく、特に感心の無いルフェルスを魔王として育てる事。
その為にわざわざ厨房に洗脳した人族を紛れ込ませるほど周到に準備を行う。
すべては今日のためだ。
人族が近くに居るというだけで殺意をばら撒いてしまいそうな己の心を律して耐えてきた。そして、目的のための準備も最終段階に入り、すでに計画は動き出している。
記念すべき日になるだろう。
暗い笑みを浮かべて舞台に立つためにカルタロフは立ち上がった。
――――…
王城の食事と言えば長いテーブルに離れた席がイメージとして浮かぶ。
だが、魔王城はそんな長ったらしいテーブルなんて置いていない。家族の団欒は丸いテーブルで行われていた。
見た目も綺麗でとっても美味しそうな晩餐。
私は魂なので食べる事は当然できない。なので、見ているだけなのだが、それだけでも美味しそうな食事にじゅるりと涎が垂れそうな感じがする。
そんな雰囲気を発していたからなのかルビーが私をつんつんとして笑った。
そしてルビーは私になにやら魔術的な線を繋いでくれた。
なんだろうと思っていると、ルビーが食べた物の味が私に伝わってくるではないか!
「伝達魔法なのじゃ。これで味覚や視覚を共有出来るのじゃ。」
【すごい!ルビーありがとう。】
「エスティアは妾の友ゆえ当然なのじゃ。」
【ふふ。うれしいな。ルビーも私の大切な友達だよ?】
「二人だけでずるいです。僕もちゃんと入れてくださいね?」
【もちろんだよ。ルフェルスも大切なお友達。】
ずっと君やちゃんで呼んでいた私は、いつの間にか互いに呼び捨てるまでになっていた。
この場所に来てどれだけの時が経ったのだろうか?私の体はどうなっているか分からないまま時を過ごしてきた。
魔法を学び、少しずつ感覚を掴んできたものの未だ魔法らしい魔法が発現した試しはない。かなり魔法の種類などは覚えたのだがどうしても上手く発動できないままだったのだ。魔力の扱いは上達したのになぜだろう。
そんな私に二人はずっと寄り添って教えてくれていた大切な友人。
魂の状態の私を受け入れてくれた温かな家族。
だから、私はこの家族が大好きだ。
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