第9話 魔法を学ぶ
魔王城で過ごし初めて少し慣れた頃に、エスティアはルビーとルフェルスに魔法の手ほどきを受けていた。
なんでも私がこの様な状態になったのは魂に色が無い為らしい。
色が無いと言う事はこの世界に属するものではないという扱いになり、魂が完全に体に定着しない状態になったそうだ。
魔力が成長してそれは顕著になり、自らの体と魂を引き裂いてしまった。通常の手段での魔法行使ができないとアカシックレコードに書いてあった。つまり、魔力が体で暴れて抑えが効かなくなったのだろう。
だから私は魂の状態でここに居る。この地は魔力が強く力の強い者が多くいるためだ。強い体を求めて魂が離脱したのだろう。そして波長の合うルビーの元へと引き寄せられた。
それを元に戻すには私が魔力をしっかりと扱えるようにならなければならない。
その為に、ルビーとルフェルスは私の為にこうして時間を割いてくれているのだが、ルビーは感覚派なので教えるには向かず、代わりにルフェルスが説明してくれている。
魔法とは体内にある魔素(マナ)を使って発動するもの。体内のマナのことをオドと呼ぶ。また、マナは大気に溢れており、使ったマナは大気や食べ物から自然と摂取していると言われている。
食べ物によって吸収できるマナの量が違っており、甘い食べ物ほどより多く回復することができると言われている。
マナを最も多く含んでいる代表的な果物がある。『アプルの実』だ。これには大量のマナが含まれておりマナポーションの材料にも使われる。
また、味もよいため通常のポーションに摩り下ろした果汁を入れると甘味が入って飲みやすくなる。
他にもマナを摂取するのに適したものは『妖精の雫』と呼ばれる蜜やハニービーの巣から取れる『はちみつ』と呼ばれるもの、『マジックマッシュルーム』と呼ばれるもの(キノコ型魔物のキノコのカサの事)などがある。
人によって持ち得る魔力には差があり、発動できるかどうかは術者の魔力による。
魔法の種類は基礎属性魔法が火・水・土・風・無とあり、更に特殊魔法が木・雷・金・氷、古代魔法は光・闇・治とあるが、時・空・魂についてはすでに失伝している。
それぞれの魔法にはレベルがあり、鍛錬を重ねることで上位の魔法を使えるようになる。
魔力は成長とともに多少増えるが、中には一気に爆発したかのように急激に伸びるものもいる。
また、魔法は使えるものと使えないものもいる。使えないというのは魔力が少ないため発動できない者がいるという意味だ。魔力が使えない[魔力なし]の者が後に魔法を使えるようになるといった後天的な魔法使いはゼロに等しい。
その魔力のある・なしについては、幼少時に魔力爆発が起きるかどうかで判断される。
大体1歳から1歳半くらいで起こるため、その間は赤子をしっかりと見ておく必要があるのだ。
魔法を発動するには、まず体内の魔力を感じ取るところから始める。
魔力を感じ取れるように訓練を行い、その後簡単なイメージトレーニングから始まり詠唱して魔法を発現し取得し始める。
火属性魔法なら『ファイア』、水属性魔法なら『アクア』、土属性魔法なら『アース』、風属性魔法なら『ウィンド』、無属性魔法なら『魔玉』となる。
その他にも属性魔法として含まれない魔法がある。『生活魔法』や『錬成魔法』や『刻印魔法』などだ。
そういった魔法から学ぶものもいれば、生まれつき魔法を持って生まれる子供もいる。
「…というのが魔法に関する一般知識になりますね。」
ルフェルスは魔法の説明をざっくりと行うと、今度は実際に魔法を使って見せてくれた。
これはルビーも一緒になって転移や得意属性の魔法を発動する。
いきなりに高度な魔法が使われて魂に目があるのかは不明だが、目が点になるほどの状況が繰り広げられた。
そんな魔法を見ているときに一つ気が付いた事がある。
魔法を発動する際、術者の前に魔法陣が浮かんでいることだ。丸い輪の中に描かれている文字はこの世界の言語で、円に沿って文字が刻まれている。
中央は六芒星が描かれており、そこに魔力が集中して発動しているようだ。
アカシックレコードを使って確認すると、魔法陣に描かれている文字はその属性や規模、必要魔力量などが書かれていた。
そんな事が分かっても今は何の役にも立たないのだが、そういう発見ってなんだか面白いよね。
「魔族は瞬時に魔法を発動できるから人族みたいに詠唱とかは必要ないのじゃ。なんとなくかっこいいから呪文っぽく唱える事はあるのじゃが。」
「ともかくエスティアは魔力をまず感知して自在に操れるようになるところからですね。」
【その魔力ってのがよく分からないんだよね。イメージがあんまり沸いてこないというか。】
「そもそも理屈じゃなくて本能的に分かる物じゃからな。エスティアはきっと難しく考えすぎなのじゃ。」
「瞑想なんてするのも良いかもしれませんね。あ、でも寝ちゃったらどうなるんでしょう。魂の状態の今はとっても存在が希薄なのでうっかり消えないといいのですが。」
【こ、怖いよそれ。雪山で遭難しているみたいじゃん。】
「実際そんな所でしょう。雪山ではなく魔族領ですが。」
【はぅ。とにかくやってみるよ。】
魂の状態でも自分の体を忘れる事なんてない。魔力、魔力、一体どこに居るの?
意識すると目の奥に魂の輝きが見える。丸い球体だから目があるというのは何とも表現がぴったり来ないけど。
その魂のずっと奥に意識を向ける。
どこまでも透き通っている魂に奥なんてあるのかは不明だけど。意識を沈めていくとまるで海の中に居るみたいだ。体が無い分意識が浸透して広がっていく。
うっかりこのまま消えるとか無いだろうか。心配だ。
そんな雑念が思わず沸いてくる。雑念を振り払って再び意識を集中させる。音もない世界が私の中に広がる。
そんな中自分の魂を中心に渦巻く流れを見つける。その流れは私の周囲を巡るように流れている。それは人の形をした力の流れ。その流れを意識して引き出す。
丸い魂の体の傍に魔力の塊が集まっていく。それを散らしたり纏めたりしながら魔力の流れをコントロールしていく。
そのうちに魔力は弾力を持ち、ねっとりとした粘りを持ったりさらさらに流れたりもする。それを訓練していくと次第に飴細工のように変形することが出来るようになって来た。
「おぉ。すごいのじゃ、エスティアが魔力をコントロール出来ているのじゃ。」
「魂の状態である分、魔力の流れを掴むのが早かったですね。」
【そうかな?えへへ。】
なんだか褒められるとうれしい。
形を変えて変形が出来るようになった時に、ルフェルスが今度は魔石に付いて教えてくれた。魔石は魔力を固めて作る事が出来るそうだ。
自然界でできる魔石は魔力が溜まった場所で長い年月をかけて石のように固まった物の事。モンスターの心臓部付近に生成されるものであり、地中や鉱山、魔力溜りなど魔素が多く含まれる場所で見つかることもある。
ちなみに不純物が多く内包する魔力が小さいものや欠けた魔石などのことをくず魔石と呼び、安価で売買される。魔石がさらに時間をかけることで成長し結晶化したものを魔結晶と呼び、また自然と魔力溜りなどでできた高濃度の魔力の結晶のことを魔晶石と呼ぶ。
また、属性を含む魔石は非常に希少なため小さなものでも魔石と比較すると高価で取引されることがある。属性魔石はそれぞれの属性に即した場所で見つかることが多い。
例えば火属性魔石は火山の火口近くやその周囲。火山の近くであればあるほど多く見つかる。水属性魔石は魔素に富んだ澄んだ水の中で見つかることが多い。世界樹の近くでは木の属性魔石が見つかることがあるなど。
また、魔石をお金の代わりに取引したりする事もあるそうだ。
知識を深めながら日々を過ごしていく。
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