第8話 魔王さまご一家


 えー、みなさん。こんにちは。お元気ですか?


 現実逃避気味のエスティアは現在、とある一室にてビックな方々とご一緒していますよ。

 遠い目をしている私はおかしくない。目の前の光景こそがおかしい。きっとそうだと思いたい。

 そう。現在私の目の前には見目麗しい男女と幼い男女が私を取り囲んでお話し中なのだ。

 長い黒髪をそのまま流して顔は…美形も美形。きっと女性もうらやむばかりの整った顔立ちを持つ美貌の男性と白髪ではあるが、まるで絹のような光沢をもち、白銀の輝くようなサラサラの髪を流した女性がいらっしゃいますね。

 もちろん、幼い男女の組はいうまでもなく、ルビーちゃんとルフェルス君。

 王族だと知ってルビー様、ルフェルス様と呼んでいたら、呼び捨てを強要されましたよ。えぇ。それはもう恐れ多いことですと丁重にお断りしようとして申し上げましたとも。

 しかしルビーちゃんとルフェルス君で現在は許して貰っているのだが、まだまだ諦めていないご様子。

 そして、とても麗しい美男美女達の家族の間に置かれた丸い物体。


 …なんとも奇妙な構図だ。


 ここに来るまでの経緯なんかもしゃべりましたが私は家で普通に寝ていただけのはず。

 包み隠さず現在もお話し中。とはいえ、お話が飛び火してあらぬ方向に行っている気がするのだが。

 けっしてルフェルス君が怖かったからというだけじゃないんだからね。

 なによりこんな豪華なメンツになぜか色々と撫でたりつんつん触られたりして愛でられている。丸いフォルムが良いのでしょうか?

 いや、そうじゃなくてだよ。なんだこの状況。

 私を見た途端、魔王様の奥方であらせられるマルーン・サタベル様がなにやら画策しているようだ。ルビーちゃんが大きくなったらこんな別嬪さんになると考えると将来有望だね。

 赤い瞳の奥でルンルンと着せ替え人形という名の獲物を見つけた時のような楽しげな光が垣間見えるのは目の錯覚かな。生地がどうのとか素材がどうだとか聞こえてくるのはすべて幻聴だと思いたい。

 ええ、私も女の子ですからその気持ち分からないでもないのですが、何を考えているのでしょうか。自分自身が生贄…になると思うと何とも言えない気持ちになるね。

 いえ、今はただの球体なのですが。

 そしてそれを微笑ましげに眺めているアレイスター・サタベル様。かの方がこの国の王である魔王様だ。そして、奥様を止めてくださいアレイスター様と懇願の視線を向けると、にっこりと女性人が受ければ卒倒ものといえる美貌で麗しく微笑まれてスルーされた。

 さも私は無関係ですと言わんばかりだった。

 笑顔の奥に諦めろ。こっちに飛び火するのはごめんだとばかりの微笑ましい目線で返してきやがりました。

 えぇ。思っているだけなのでちょっと口汚くなってしまうのはご愛嬌。

 しかし、なんだか思っていた以上に普通の家族にみえる。

 まさに、魔族とか人族とか関係ないってこうしてみると感じるよね。


「うふふ、エスティアちゃんどんな姿がいいかしら♪」


 手をわきわきさせながら私に近づくマルーン様。

 逃げ出す私。怖い。助けてとルビーちゃんに目線を送るとすごい勢いで目を逸らされましたよ。それならとルフェルス君を見ると諦めろと遠い目をした彼が。

 そうこうしているうちにマルーン様に壁際まで追い詰められてしまった。

 はぅううう!助けて~。

 がっしりと掴まれてボディーチェックなのだろうか?体ないですけど。

 あ、だめ!そんなとこ。もにゅもにゅと丸い体を確かめられている。


――――…


 終わった。悪魔の検査が…自身の体ではないにもかかわらずなぜか深刻なダメージを受けた気がする。

 主に精神面で。ぐったりと寝そべる丸い玉。心なしかへにゃっているように感じる。

 それを宥めるルビーちゃんとルフェルス君も遠い目をして…。

 えぇ、当然のことながら私だけで留まらず二人ともマルーン様の餌食に。

 そしていつの間にか消えていたアレイスター様。

 その逃げ際は見事としか言いようがないよ。みんなでお揃いのお洋服を仕立てるとマルーン様は張り切っていましたね。

 しかし、いいんでしょうか。出会ったばかりの私にここまで仲良くしていただいて。

 なんだかとっても申し訳ない気がします。

 そんな雰囲気を感じたのか、ルビーちゃんが私の頭?を撫でてくれる。


「妾たちはもう友達じゃ。エスティア、母上のことなら気にすることはないのじゃ。」


「そうですよ、エスティアさん。あれは母上の趣味です。かわいいものに目がないので大丈夫ですよ。」


【うん。ありがとう二人とも。なんだか申し訳ないなって思っていたの。】


「そうよ、気にしないでエスティアちゃん。とってもかわいい体を作るから楽しみにしておいてね♪」


【あ、ありがとうございます!マルーン様。】


「それにね、あの人も何にも言わないけど、人族のエスティアちゃんがこうして会いに来てくれてうれしいのよ。」


 少しだけ淋しげな瞳でマルーン様はそっと私を持ち上げる。会いに来たというか引き寄せられてきたというか。

 そもそも私の体は大丈夫なのかとか色々考えることもあるのだが。


「いつかあなたが大きくなったらきっと城まで遊びに来てね。……それがあの人の助けにもなるから。」


 小さくつぶやいた声はあまりにか細く、後半は私には届かなかったが、いつか自分の体でちゃんと会いに来てみたいと心の中で決めたのだった。

 魔王城をルビーちゃんとルフェルス君と一緒に探検もとい、案内をしてもらいつつしっかりと部屋の位置を覚えさせられ、迷子にならないようにと言い聞かせられましたよ。

 私は子供か、いや子供だけども。まぁお城は広いので普通なら簡単に迷子になっちゃうものね。うん。迷子になる自信はある。

 それぞれのお部屋を案内してもらいつつ。一通り巡って部屋に戻るといつの間にか消えていた魔王様が戻ってきていた。手に何か持っているが、よく見ると青いリボンですかね。そして丸い体をむんずと掴んでリボンをくくりつけてくれた。

 何ですか、これ。まさか魔王様もマルーン様と同類…と考えたところで悪寒がしたので、それ以上は考えないことにしましたよ。

 えぇ、それはもう思考を読まれたような錯覚が。アレイスター様の黒い微笑が怖い。


「それを着けていれば、誰かに勝手に破壊される事もないだろう。」


【えっと。その、ありがとうございます!アレイスター様。】


 よく見るとリボンには何か刺繍が入っていた。蝙蝠の翼にヤギの角、蛇が重なった悪魔っぽいマークだが、何かの紋章だろうか。

 リボンを見つめる私に気が付いたのかアレイスター様が説明してくれた。


「それは、我が国の紋章だ。その紋章を使えるのは王家だけ…つまり、簡単に言うとそれを持てば身分が保証されるという事だ。」


【なるほど。そんな貴重なものを着けてくださったのですね。】


「城の中をその姿で動いているとなるとうっかり壊しかねんからな。」


【……ですよね。】


 とっても壊れやすそうな丸い球体ですから確かに怪しさ満点で破壊してくださいと書いてあるようなものだものね。

 さすが、アレイスター様ありがとうございます!

 これで安心して城内を歩けるね。歩く?そんなこんなで免罪符?を得た私は無事に魔王城のルビーちゃんのお部屋に居つくことになり、暫くするとマルーン様がウサギの形のぬいぐるみを作ってくださいました。

 それを被れば完璧に動くぬいぐるみだね。リアルな人形じゃなくて良かった。ホラーは御免だ。


 そうこうして過ごす日々、不安も数多くあるけれど私は初めてのお友達ゲットをしたのだった。


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