第3話 ムズムズするのは
ごくごくとミルクを無心で飲む。
現在、母さまご飯いつもありがとうってお洋服をきゅっと掴んでいるところですよ。言葉を話せないのは申し訳ない。「あぃ」とか「あぅ」とか泣くくらいしかできないからなぁ。あ、ゲップが出た。
私、赤ちゃんらしい赤ちゃんできているのだろうか?ちょっと自信がないんだよね。
夜泣き……必要ないよね?当然しないし、仕方が分からないというか他の赤ちゃんなんて知らないし。情報集めてそれっぽくしないとちょっと間違えると変な子扱いどころか悪魔の子って教会にでも連れていかれそうだよ。どうする私!
最近よく気分が悪くなる。はぅ。知恵熱かな?しょっちゅうお熱を出しているんだけど、大丈夫かな?決まって気持ち悪くなった後に幻みたいなものが見える。今も頭がぼうーっとしているんだよね。どこかに引っ張られている感じ。今日は大人しくしておこうかな。
メイドのサラさんが呼んできたのか、いつものごとく父さまと母さまがびっくりした顔で飛んできた。心配そうに覗き込んでいるよ。あ、父さまの手が氷みたいに冷たくて気持ちいいな。母さまも心配かけてごめんなさい。あぁ、世界がぐるぐる回っている。これはちょっとヤバいかな。
次の日にはあんなに苦しかったものがなくなってケロっとしていた。毎回の事ながらなんだか頭の中もすっきり。不思議な感覚だね。自分自身の枠がぐっと広がったような気がするのは気の所為だろうか。
心配そうなサラさんの言う感じからすると結構ヤバかったらしい。赤子の病気は死活問題ですもんね。自重はできないと思うけど気を付けよう。
ん?そういえばさっきから目が…色が少しだけ見えるようになってきたみたい。ちゃんと見えるようになるのはまだ先のようだけど、とっても楽しみだね。
お熱も下がって元気になったので体でも動かそうかなと思ったその時、扉をノックする音が聞こえてきた。丁度今サラさんが出迎えているよ。
……あれ?しっかり見ようと思ったらなんだか視界がダブって見える。なんだか奇妙な感覚だな。ふと入ってきた人を見てみると。
!?
情報が一気に入ってきた。
あ、れ…何が見えているんだろう。えーとちょっと多すぎて見えないな。簡単に見えるといいのだけれどと思った途端、情報が急に絞られたみたい。
あれ?文字が読める。日本語だよね…これ。
どうやら何かの情報は日本語に訳されて表示された様子。集中して見ようとしたからかな。いつから私の目は顕微鏡みたいな事になったのだろうか?
表示された内容を見てみると…。
アルナス・シェイズ 男性 年齢:27歳
得意属性:水 苦手属性:火
種族:人族
所属:ラジェット王国シェイズ伯爵家当主。
………。
まんま父さまの情報なんだけど、一体何がどうなった。
じーっと見ていたからか父さまがとことこと私に近寄ってきた。ついでに後ろから母さまも着いてきた。ピントを合わせるイメージを目に集中させると画面表示が綺麗に消えた。
「あぁう。(消えた)」
喜んでいると勘違いした父さまが、私をそっと抱き上げてくれた。
頬ずりをする父さま…なんだかお肌が痛いよ。
その日は家族団欒のほっこりとした時間を過ごした。
さて、お昼寝の時間も過ぎてまずはさっきの表示について考えてみよう。
最初に確認した時は大量の情報に押しつぶされそうだったが、簡単にもできたことだし。イメージが大事なのかな?自分の情報を見たりなんかもできたりして。
そう思って意識を自分自身に向ける。先程の状況を再現してみようと考えた瞬間に、不思議な画面が現れる。画面といっても枠があるのでもなく、自分自身の脳内イメージで見ているようなものだ。
表示された自分の情報はこんな感じだった。
エスティア・シェイズ 女性 年齢:0歳
得意属性:不明 苦手属性:不明
種族:人族(異世界の転生者・色無き魂を持つ者・最高神の手から滑り落ちたもの【監視中】)
所属:ラジェット王国シェイズ伯爵家長女。
な、なんだこの情報は。色々と突っ込み所が満載だけど、かっこの中ってなんだか称号っぽいな。とりあえず称号らしきものを確認しよう。
最高神の手から滑り落ちたものって何なの?知らないよ!詳しく見ようと意識すると称号の下に細かく表示されてきた。
『異世界の転生者』
異世界の魂をもって転生したもの
『色の無い魂を持つ者』
洗濯途中に放り出され漂白されている。途中の為、魂の色が無い。無色透明。属性が無いため通常手段での魔法は使えない。
『最高神の手から滑り落ちたもの』
最高神オーディンが魂の洗濯中にあった事故で手から滑り落ちてしまった魂。
現在監視中(暇つぶし対象)興味度100%
………。
どうしよう。異世界の転生者は分かるのだけど、神様…私の魂を洗濯していたんですか?神様ってそんな事もやっているの?
それよりも、魔法が普通の手段じゃ使えないってどうしたらいいんだろう。転生して魔法が使えるかもと期待していたのに。というか、監視中で興味度100%ってすごい事になっているし。神様に覗かれているとかって怖いよ。
この情報って誰かに見られたりするのかな?見られたらヤバいよね。神様に見られているなんて教会とかにばれたらどうなるんだろう。怖い未来しか浮かばない。
何とかならないかなと考えていると画面にピコピコとカーソルらしきものが現れた。なんだろう?カーソルを動かそうとすると自在に動く。
もしかして編集できたりするのかなと考えると不思議な事に画面が切り変わった。設定なども弄れるらしい。良いんだろうかと思いつつ編集の設定で偽装の項目を選択する。
ともかく称号らしき部分を隠すように設定すると「変更を保存しますか?」と表示されて「はい」と「いいえ」の画面が出てきた。意識するだけでそれが変更できる。
変更を完了すると「アカシックレコードの編集が終わりました。」というメッセージが流れて消えた。画面は編集前に戻り、称号は綺麗に隠れてくれた。これで少しは安心かな?
――――…
あの不思議な画面が発現してからあっという間に1か月が経った。
毎日ミルク飲んで元気いっぱいだね!相変わらずすぐに熱を出したりしているけど、赤ちゃんって大変だ。少しの体調不良が大事に係わるんだよ。
家族が代わる代わる会いに来てくれているけれど、父さまは一体どんなお仕事をされているんだろう。出仕している感じはないのでもしかすると自宅が仕事場なのかな。
あれから色々とアカシックレコードについて考えていたのだけど、あれはまるっきり人生記録(ログ)だね。細かくいつ何をしたのかまで書いてあるし…なんだかとっても怖い。
例の知識にある地球でいえば地獄で閻魔様に罪状を読まれるってこれを呼んでいるのかな。
アカシックレコードの閲覧編集技術は失われているとまで書かれていたので、それで良かったかもしれない。
だって使える人には相手のプライバシーなんて関係なく見られちゃうから不味いよね。おまけに改竄し放題とか何が起こるか想像がつかないよ。下手をすれば人格そのものも変わってしまったりするのでは無いだろうか?
よっぽどの事がない限り最低限の情報以上のことは私も覗かないようにしようと思う。
本当だよ?
あ、でも自分以外の情報を弄ったらどうなるのかは何れ何らかの形で実験をして見なければならないよね。知らないままだというのも怖いし。犯罪になったりするんだろうか。
こういうのって良くない物だというのは分かるのだけど、そもそも技術が失われている時点で私以外に使える人は居ないのかな?だとすれば少しは安心できるのだろうか。
このままだと思考の坩堝に嵌ってしまいそうだね。
ふふふ、もうすぐ生まれて半年になるよ。
我ながら長かったような短かったような。そういえば最近なんだか体がむずむずしてきたんだ。もう少しで何か新しい事が出来るようになる予感。
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