第8話 目撃
ファラの案内のもと、ヴェルジュ樹海を目指して早・・・何日だっけ?
十日?二十日?
まあ、どっちでもいいわ。道すがらファラには修行に付き合ってもらっている。
『飽きもせず、よくもまあ・・・。』
などと口では言いつつ、ファラはオレを容赦なくボコボコにする。
言外に、お前は幾ら修行しても無駄だと言われている気分だが、生憎とオレの神経は図太い。誰かさんに鍛えられているおかげで。
・・・ちくしょう、身も心も鍛えられているぜ。ありがとうよ。
さて、そんな日々をいつも通りに過ごし、今日もオレは何度も意識を失った。
剣使でなければ、深刻な後遺症が残るほどのハードな修行の日々。ファラは手加減、手心という言葉を知らないのだ、きっと。・・・そうじゃないと可笑しいよ、この仕打ちの数々。
一日の流れはヴェルジュ樹海を目指しての徒歩を十一時間。
修行十一時間。睡眠二時間。以上。
随分とわかりやすいスケジュールだ。細かくない。
さて、修行時間は何度もファラに叩き伏せられ、気絶しては起こされるが繰り返される。
体力の限界の限界の限界まで追い詰められて・・・ついには起こされても起きれなくなる。そこでその日の修行は終わる。それが日常。
初日は胃液すら吐き出せなくなるほど辛かったが・・・今は少し慣れた。・・・・・・・・・・・・本当に、少しだが。
その頃に比べれば、今は修行を終えても辛うじて立ち上がれる。
これはすごい進歩である。いや、本当に。
しかし、疲れ果てていることに変わりはない。なのでオレはさっさと意識を手放した。
◆◇◆◇
目覚めたら、朝だった。
周囲を見回す。ファラの姿は・・・見当たらない。
昨日は街道の外れにある寂れた無人の小屋をねぐらにした。だが、オレが意識を手放したのは外だった・・・はずだよな?
なのになんで小屋の中に・・・って、ファラが運んでくれたからか。
修行とはいえ、一切の容赦なくボコボコにされているせいか、素直に感謝する気にはなれないが・・・やっぱり礼の一つでもしないと失礼だよな、うん。
戻ってきたら、ありがとうと伝えるか。
・・・・・・だが、そんな感謝の気持ちが一瞬で霧散した。
理由は小屋内の地面だ。
出入り口から今現在、オレが寝転んでいる地点まで何かを引きずってきたような痕跡。
・・・考えるまでもない。答えは明白。
ファラめ、強化剣技を使えばオレを担ぐことも出来るだろうに、めんどくさがって引きずったな。
自分の体を見れば、見事に全身土塗れ。
においも・・・うん、汗臭い。
「・・・水浴びと洗濯だな」
目覚めた時の、日課になりつつあるルーチンだ。
まあ、スケジュール的に歩いて、寝泊りするところを確保して、修行する・・・。
それの繰り返しだしな。
歩いている時も、魔素の効率的な使い方を教わりながらだし・・・思い返してみれば、随分とストイックな生活を送っているものだ。
ファラは女のはずなのに、そういう展開というか、空気にもならんし。
・・・・・・・・・いかん、なんだか虚しいというか、悲しくなってきた。
「とりあえず、顔洗うか」
未だに寝起きでボーッとする思考のまま、近場の水場・・・今日は少し小屋から離れた川岸まで歩いていく。
井戸があれば最高・・・いや、水の属性剣技さえ使えれば一番なのだが、生憎とオレもファラも使えない。
基本、契約した剣獣の属性は一本の剣につき一種類だけなので他の属性剣技は使用できない。
オレとファラはどちらも火属性なので、食事を作る際の火種には困らないのだが・・・日常生活においては、それぐらいしか役に立てない。
やはり戦闘でも日常生活でも、一番の応用がきくのは水属性の剣使だろうか。
色々と重用されるとも聞くし。
そんなことを延々と考えて歩いていたからこそ、オレは気付けなかったのだ。
この時、オレは致命的なミスを犯していた。
何故、オレは洗濯と水浴びをしに水場を目指した?
理由、汚れていたから。
それは、オレだけか?
否。
ファラだって、地面には倒れ伏していないが、汗はかく。
一人で水浴びする時間は?
もちろん、ほとんどないに等しい。
一日の大半を、オレと共に修行で過ごしているのだから。
だから、こんな早朝ぐらいしか・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・ファラが、いない、理由は?
徐々に、脳みそが、働き出す。
冷静に、もう一度、自問自答してみる。
・・・・・・・・・・・・まずいぞ。
今までは、目覚めたら身だしなみを整えたファラが、当たり前のようにいた。
いや、正確には叩き起こされてきたわけなんだが。
しかし今日に限って、オレは自力で起きた。起きてしまった。
つまりは・・・・・・。
うん、引き返そう。今すぐ。迅速に。
そう決意した直後だった。
ザパアァッ!!
聞き間違いようのない、水しぶきの音。
周囲がやけに静かだったせいか、その音が妙に大きく響いた。
反射的に、オレの視線が音のした方向へと向かってしまう。
脳内では、やめろ!そちらを見てはいけない!と警告したが・・・時すでに遅し。
まず、視界に飛び込んできたのはファラの裸。
というか、それしか目に入らない。
肝心のファラは、オレの存在に気付いてもいないのか、濡れた髪を無造作にかきあげる。
その一つ一つの仕草が、妙に様になっていて・・・・・・不覚にも、見惚れてしまった。
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