第20話 レイヴン・クロウ
これが本当に正しいことなのか分からない。
けれどもあの方がそう望んだから、私達は確かに自分の意思で動いた。
誰よりも何よりも苦しんだ、あの黒い『カラス』の為に。
◆◇◆
黒い軍服に身を包んだカラスは、静かに問うた。
「本当に良いのか、お前達……」
その言葉に、異形の角を生やした女は言った。
「そんな不安そうな顔で言われても困ります隊長。隊長には凉萌様のように強く在って頂かなくては」
覚悟を決めた闇のような黒い瞳と目が合った。真っ黒の筈のその瞳の中に未だ迷いの残る男の顔が映る。
次に見たのは金色の瞳を持った男だった。男は軽薄な笑みを浮かべたままに言う。
「そうだよー。隊長らしくないなぁ。オレは何も後悔なんてしてないよ。一度死んだ身のオレを生き返らせてくれた凉萌ちゃんの為にもう一度死ねる。そんなオレには何も怖いモノなんてないからさ」
ニッコリと笑ってそう言った男は道を譲るように身を引いた。
俺が最後に見たのは、黒衣の女。その片方の瞳は輝く月のような金色で思わず目を逸らしたくなった。何よりも誰よりも巻き込んでしまった。やはり俺だけですべてを済ませようという気にもなった。
けれども、その右目の眼帯が責めるように俺を見て来たような、そんな気になって、張り付いたように喉の奥で言葉が詰まる。
「私は果報者ですね。このように慕ってくれる良く出来た部下を持てて。そんな部下を持てた私を従えるのです。――隊長。あの日の約束をお忘れですか?」
愛用の煙管の吸い口に口を付ける姿があの日見た美しくも儚い女性と重なって、頭を振り被りたくなった。それでも女の『あの日』という言葉に思い留まり、自身の髪をぐしゃりと掻き雑ぜるのみに抑えた。
「お前達……。本当に……俺には勿体ないくらいよく出来た奴等だよ」
復讐心に身を任せ、そのまま業火に焼き尽くされてしまえば良かったのに。
下手にくすぶる熱などなければ良かったのに。
そう思いはすれど、もう遅い。
種火は既に撒いてしまったのだから。
「――明朝、城を襲撃する」
本当は、巻き込むつもりなんか無かったんだよ。なんて言葉、今更過ぎるか。
俺は散々巻き込んで、色んな奴らの幸せを奪ってきたんだから。
「俺が奴の息の根を止めるその瞬間まで、存分に暴れろ!」
その言葉が皮切り。俺達の、俺の、終わりの言葉。あまりにも綺麗な敬礼をする三人を見て、俺は何故だか泣き出してしまいたくなった。
けれども涙はあの日、愛した女の首を掻き切ったあの日に、枯れ果てた。
だから泣かない。泣けない。
心に宿すのは、瞳に宿すのは、ひとつだけで良い。
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