第21話 何かが?
落ち着け俺、まだ騙されたと決まった訳じゃなかった。落ち着かせるために、取り敢えず深呼吸をしながら周りを見てみる。
右を見ても左を見てもやっぱり、ジャージ姿は見かけない。本当は騙されたんじゃないかと、疑いたくなるが悠里は、ゲームセンターやカラオケと言っていたし、まだ見かけなくても大丈夫……大丈夫だと思いたい。
大丈夫だと言い聞かせても、やはり不安は消えないもので、待っている間アプリゲームをしながら、辺りをチラチラと見ていたらジャージを着た人を見つけ、一瞬歓喜したがおじいさんとおばあさんが、仲良く手を繋ぎ歩いている姿だった。
その光景を見た時、やっぱり俺は騙されていたんだなと、膝から崩れ落ちそうな感覚になるが、その光景を見ていると羨ましくも思う。
俺もいつか歳をとっても、あんな風にいつまでも、仲良く手を繋ぎ合っていられるような関係を誰かと持ちたいなと、まあ、そんな事を考えても、相手すら居ないからしょうがないが。
そんな事を考えながら、その光景を見た後もゲームをしながら、辺りを時折見ていた所で遠目に、黒木らしき背の高さをした人物が見えた。
背の高い人物を見ていたら隣にも見覚えのある人物が見え、その2人が段々と近づいて来て黒木と山崎かと確信するが、格好と黒木の余りにもの変身具合を見て俺は絶句する。開いた口が塞がらないとはこの事だろう。
待ち合わせ場所から近い場所で、2人の姿を見た俺は、黒木と山崎の格好を見て、悠里を絶対に泣かすと誓う。
妹を泣かすのはどうかと思うかもしれないが、こればかりは許せない。
何がオシャレをしないだ、黒木と山崎はオシャレしてるじゃないか、山崎はオシャレって言うよりは、コスプレに近い感じはするけど。
山崎の格好は、よく攫われるお姫様を助ける配管工おじさんの、色違いな格好をしている。付け髭を付けて、キノコを持って、水色の服と帽子を着替えて貰ったら完璧だ。
オシャレな黒木を助けて来たと言われても信じられ、可愛い配管工おじさんの弟子って感じがする。
山崎にそんな助け出された黒木の格好は、王子様と言うよりはホストっぽい感じが髪型から格好まで見てとれる。所謂お兄系の服装にとんがり靴まで装備している。
普段、掛けていたメガネは、外していてコンタクトに変えている様で目がいつもより大きく見える。いつもの何倍イケメンだよって大にして叫びたい。
黒木は本当にオシャレをしすぎだろ。何だよこの3人の格好の格差。
傍目から見たらホストとコスプレとロイヤルクソニートが遊んでいる様にしか絶対に見えないだろ。
「増田君、おはよう。お待たせ! 来るの早いね」
「増田殿、おはようですぞ。お待たせしましたぞ、ジャージですぞ? 運動でもしてきたんですぞ?」
2人が近くまで来て俺の姿を見つけ駆け寄って来て挨拶をしてきたが、黒木の方が俺の内心など知るはずも無く、胸を抉るようにストレートに聞いてくる。
妹にジャージで充分だよと、絶対大丈夫だからと、諭されジャージを着て来たんだとか、みっとも無さ過ぎて言えるわけもない。言えたらどれだけ楽な事か。
「お、おはよう、黒木に山崎。まあ、早起きしたし家から1駅しか離れてないから、走ってこようと思って、ジャージにしたんだがやっぱり失敗だったな。こんな格好でゴメンな?」
見苦しい言い訳と言う名の嘘しか付けない、自分が恨めしく思いつつも、他に言い様が無いから、俺は苦笑いしつつ、そう言う事しか出来なかった。
「増田君、早起きしたからって走ってきたの!? す、凄いね、僕も見習わなきゃ行けないなあ……」
「ま、増田殿は本当に凄いですぞ……や、休みの日に体育の授業以外で運動をしようと思うなんて尊敬ですぞ!」
俺の言葉を聞いた山崎は苦笑いしつつ、お腹を触りながら言ってきて、黒木は普段からは想像出来ないほどの、イケメンスマイルを俺に向けながら言ってくる。
服装について何も言われないのは嬉しいが、走ってきていないのに、尊敬するとか、見習わなきゃ、とか言われると変に困る。悪い気さえしてくる。やっぱり嘘は、よ、良くないな。
「そ、そんな事より始めはカラオケでいいのか!? ゲームセンターでもいいぞ!?」
変に居心地が悪く感じた俺は話を変えることにする。
「あっ、うん。そうだね、僕も始めはゲームセンターで闘剣って格闘ゲームやりたかったけどね」
「やっぱり始めはカラオケですぞ! 時間的にカラオケで、お昼ご飯を食べれて、そして遊べる一石二鳥の良いところですぞ!」
「って事でカラオケになったんだけど、いいかな増田君?」
「お、俺はどっちも楽しみだから大丈夫」
黒木の普段との違いすぎなテンション高めに、カラオケを推してくるのに、山崎が苦笑いしながら大丈夫か確認してきたから俺は大丈夫とこたえる。
黒木は余程カラオケが好きなんだろうな、今日は何縛りにしますぞ? と山崎と楽しみにしている様子で笑顔で話している。
「ではカラオケに行きますぞ!」
「そうだね! 楽しもうね増田君!」
「俺は昨日から楽しみにしているけどな!」
俺の言葉を聞いて2人が笑っていたが、何か悪い気はしないなと考え、そのまま3人で歩き出そうとするその時だった。
「け、健人! 着くの早いね!」
歩き出そうとしたが、俺を呼ぶ聞き覚えのある声に俺は振り向くと、そこには俺と同じジャージを着ている理衣亜が立っていて、それを見た瞬間、この先何が起こるか分かり、俺の中で何かが切れる音がした。
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