第19話 決まってる?




 俺は今、隣で悠里が今も母さんに色々言っているのを聞きつつ、必死に落ち着くように深呼吸を繰り返している。



 相手は可愛い妹なんだ、言葉は全く可愛くないが、手を上げるなんて以ての外だ。例え「お母さん! おにいが見えちゃいけないものまで見えてるよ!」と言われていても。



 「おにい? 世の中にはね、私たち友達だよねって言って、何でも奢って貰おうとする人が居るけど大丈夫?」



 悠里は母さんに色々と言うのを急に止め、必死に深呼吸をして、落ち着こうとしている俺に友達が出来たのを、まだ疑っている様に聞いてくる。



「……俺を何だと思ってるんだ? 騙されると思うのか? ちゃんと友達だから、ちゃんと友達ぐらいいるから」


「勿論思うけど? おにいチョロそうだし、今まで友達いないから俺達友達だよなって、言われたら喜びそうだし。友達ぐらいいるって、見栄をはらなくてもいいんだよ? 大丈夫、ちゃんと分かってるから」



 言葉を強めに悠里の言葉に反論をした俺だったが、悠里の更に返してきた言葉に、折角深呼吸をして落ち着かせていた俺の表情を固まらせ頬を引き攣らせた。



 何も分かっていなさすぎて俺は驚きだよ。友達はいるって言ってるのに、悠里は話を聞いてないのか。



 よ、喜ぶの部分は流石に全く否定出来ないが、今日も遊ぶのを楽しみにし過ぎていて、全く寝られて無いぐらい、本当に喜んでいたから否定出来る部分が無さすぎるが。チョロくて騙されそうとは心外すぎるだろ。



「……俺にだって、ちゃ、ちゃんと友達ぐらい、ほ、本当にそれなりにいたから……そ、それより相談したい事があるんだよ」



 俺は頬を引き攣らせたまま、何とか反論し悠里に言葉で勝てる気がしなかったから、話題を逸らす事にする。

 逸らさないと持たない、俺のメンタルが。



「ふーん、相談? お金はあんまり持っていかない方がいいんじゃない?」


「……いや、違うから。その話はもういいから! 服だよ服、どんな服装で友達と遊びに行けばいいか悩んでるんだよ!」



 悠里の言葉を流そうとしつつ、俺は服装の事をどうすればいいか聞く事にした。

 本当に悠里は俺を何だと思っているのか謎だ。お金をあんまり持っていかない方がいいって、絶対変な事を考えてるだろ。



「……ご、ごめんおにい……何を言ってるか、意味が本当に分からないんだけど……」



 俺の悩みを聞いた悠里が、困惑顔になりながら言ってくるが、悠里の言葉を聞いた俺も、困惑顔になった。



 俺は悠里が一体何が分からないのかが、分からない。どんな服装で友達と遊びに行けばいいかと、これ以上に無いぐらい、わかりやすい説明がある訳が無い。

 


「この上なくわかりやすく言っただろ? 服装はどんな服装で、友達と遊びに行けばいいのか聞いてるんだ」


「……そ、そうなんだけどね。そ、それより服装を気にするって、遊ぶ友達の人は女子なの?」


「は……い?」



 悠里の言葉に間抜けな返事がでてしまう。

 え? 服装に気を使うと、何で女子と遊ぶことになるんだ……た、確かに女子と遊ぶのに服装は気にするだろうけど、意味が分からない。



「いや、だから女子と遊びに行くの?」


「え? 男友達に決まってるだろ……何で服装を気にしただけで女子になるんだ……」


「ふ、ふーん。そ、そっかそうだよね、おにいが私とリアねえ以外の、女子と遊べるわけが無かったね! そ、それで男子の友達と遊ぶ時の服装だっけ?」



 俺の言葉を聞き悠里は満面の笑みになりつつ言ってくる。女子と遊べるわけが無いって、決めつけられるのも辛いが、その満面の笑みが可愛いけど怖い。



 ま、まさかBLとか変な事を考えて無いよな? 悠里にそんな趣味があったのか? ……趣味はいい事だけど、俺を含めたやつで変な想像はして欲しく無い。



「……あ、ああ。そ、それでどんな服装がいいと思う?」


「そうだねえ、その男友達とはどのぐらい仲がいいの?」



 俺の不安は的中したのだろうか。

 悠里は満面の笑みを浮かべながら男友達の部分を強調しながら聞いてくる。



「……え、えっと、な、仲の良さとか、か、関係あるのか?」



 俺は不安を押し殺しつつ、仲の良さと服装の関係が分からないから、聞いてみることにした。どのぐらいの仲の良さって、ふ、服装には流石に、か、関係無いよな……



「はあ……これだから、おにいは……おにい? おにいが知り合ったばっかりの人と、おにいが遊ぶことになったとするでしょ? 極端だけど、おにいが遊ぶその人が、凄くオシャレか凄くだらしなく見える格好だったらどう思う? どっちがいい?」


「……え? 遊びに行くんだよな? 普通にどっちも凄く嬉しいが? 何、分かりきったことを聞いてくるんだ?」


「……ご、ごめんおにい、聞いた私が馬鹿だった……本当にごめんね、私がいつでも遊びに行ってあげるからね」



 悠里の言ってる言葉がイマイチよく分からず、普通に思ったことを言ったら、悠里の満面の笑みが消え、哀れんだ様な目をしながら謝り同情したようなことを言ってくる。



 いやいや、おかしいだろ。その目はなんだよ、知り合ったばっかりの人と、遊べるって友達になれるチャンスだろ、嬉しいに決まってるだろ。

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