第17話 お母さん!




「これは着やすいけどよれてだらしなく見えるかな、このクマさんとうさぎさんは子どもっぽすぎるよね、こんな事になるなら新しく可愛いパジャマ買っとけば良かったよ……」



 悠里ちゃんと電話を終えた私はお風呂の用意をしようと、下着姿のままパジャマの事で頭を悩ませている。

 本当に本当に写メを送る気は無かったけど悠里ちゃんの言葉が、私の送らないって気持ちをなくさせてしまった。



 その妹ヒロインもののタイトルを聞くと、タイトルもダメだった。

 俺は可愛い妹が大好きすぎて恋ができない! ってタイトルみたいだけど、本当に本当に意味が分からないよ。


コンコンッ


 物語は、うん。可愛い妹の為に尽くすお話みたいだけど、お兄ちゃんが妹を恋愛対象として見ているのが本当にダメだよ! 健人が悠里ちゃんを恋愛対象にする様になったら、冗談でも笑えないよ。


コンコンッ


 悠里ちゃんの羨ましい健人のお部屋訪問と写メの事は取り敢えず置いといて、ラノベの話を私はもっと詳しく、健人に楽しくお話をしてもらう為って、事にして話を聞いたけど後悔する事になる。



 私が想像していた、妹もののラノベは兄妹が仲良く、ほのぼの楽しく過ごす様な物語だったらどれだけ本当に良かったか、けど尽く違っていた。



 妹に溺愛され結婚を迫られる俺!? とか義妹監視中につき彼女が作れない、ってラノベも読んでいるみたいだけど、本当に聞かなければよかった。


コンコンッ


 毎晩毎晩、妹が添い寝をしてきて一緒に朝を迎えて、休日は必ず妹とデートをしたり、お兄ちゃんのお部屋には監視カメラ仕掛けたりと、そんな羨ましいお話しばかり。



 話を聞いてる時、悠里ちゃんの声は何故か「気持ち悪いよね」って言いながらどんどん弾んでいく、それに比例して私の声はどんどん沈んでいく。



 あまりにも羨ましすぎて、私は話を聞くのを途中でやめた。もしかして既に健人は悠里ちゃんにされてたりするのかな? そのせいで悠里ちゃんを大好きになりすぎて、私を大好きになれないのかな、と色々と頭を過ぎった。



 健人が大好きだと思った、金髪さんを真似て髪の毛も折角染めたのに、スカートも、は、恥ずかしいけど頑張って短くしたのに……金髪さんも、ま、まさか妹って事は無いよね……?



「……理衣亜、何しているの? 入るよ?」



 健人が実は、悠里ちゃんが大好きすぎたとか絶対にダメ。大好きなのはいいけど……

 わ、私が早く、な、何とか健人をしなくちゃいけないよね! 健人が、あ、危ないから、これはしょうがないんだよ、うん。悠里ちゃんと付き合うなんて本当にダメ。



 は、早く健人の目を覚まさせたいけどパジャマが本当にないよぅ……こ、このパジャマ達だと目を覚まさせるどころか悠里ちゃんにまっしぐらだよぅ……



「……理衣亜?」



 悠里ちゃんとパジャマを日曜日に買いに行こうかな? でも可愛いパジャマなのに高すぎるよ……パジャマで8000円とか私の安い洋服3着は買えるよ!



 でも可愛いし……うぅ、お小遣い貯金使わなきゃいけないのかな? で、でも健人の誕生日プレゼントとかに使いたいよ……



「理衣亜!」


「へっ!? お、お母さんなんでいるの!?」



 お母さんに大きな声で名前を呼ばれて、驚き振り返りながら返事をする。



「お風呂が空いたから呼びに来たの」


「の、ノックぐらいしてよ!」



 ノックぐらいして欲しかったよ、急に入って来られたら、びっくりするし困るよ。でも、よ、呼びに来たのがお母さんで、よ、良かった……



 け、健人にもまだ見せたことがないのにお父さんに見られるとか私、絶対に無理だよ。健人に見られた後も嫌だったよ……うん、本当にお父さんに見られるとか絶対に無理だよ。



「何度もしたし、それより下着姿でパジャマを見てどうしたの」



 ノックを何度もしていたなんて、ぜ、全然気が付かなかったよ。パジャマ選びに夢中になってたみたい。



「ど、どうもしてないよ……? えっと、えと……どれが今日良いかなって、そ、そう悩んでいただけだよ! うん」


「……。そう、健人君に見せるなら動物は子供っぽいかな? よれてるのもあれよねぇ」


「な、……けけけ健人は何も、か、関係無いから、うん。へ、変な事を言わないでよ」



 お母さんが私の考えを見透かした様に言ってくるから、何とか吃りながらも返事をする。



「あら? 健人君の家に泊まりに行く予定があって、健人君に見てもらう為のパジャマ選びをしているのかと思っていたけど違うの?」


「ま、まだ、そんな予定ないよ! パ、パジャマはあれだよ、えっと……そう、そろそろ替え時かどうか悩んでたんだよ。うん」


「そう、予定はまだ無いのね。いつ、予定が出来るか楽しみ。ふふふ」


「あ、うぅ……も、もう、本当にお願いだよ……ゆ、許してよぅ……」


「顔を赤くして可愛い、流石娘。ちなみに何を許して欲しいの? ふふふ」



 お母さんの言葉に私はとうとう黙り込む、もう何を言っても変に返されそうで怖いから。

 お、お母さん、い、いじめないで……本当にもう、ゆ、許してよぅ……



 それからも、少しの間からかわれてから、お母さんが部屋を出ていった。



 出ていく時にも「早くお風呂に早く入って暖まりなさい。風邪ひくわよ? 健人君に看病して欲しくて、その格好してるなら何も言わないわ」と言い残しながら。



 私はその言葉にも、何も言えないままお母さんを見送って、服を着てクマさんのパジャマと下着を持ってお風呂に向かう事にした。



 可愛いパジャマをお小遣い貯金使って必ず悠里ちゃんと買いに行こうって決めながら。



「そうそう、理衣亜? 健人君の家に泊まるのはいいけど、お父さんには黙っときなさい。それと健人君を襲っちゃダメだからね? ふふふ」


「……うぅ、お母さん!」

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