ものかたりーわらしべ風味の宝太郎ー

叶 望

ものかたりーわらしべ風味の宝太郎ー


 むかしむかし、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいた。

 ある日おじいさんは薪拾いに、おばあさんは川へ夕飯の魚を釣りに家から出て行った。

 おばあさんが川で釣りをしていると川上から宝箱が流れてきた。

 おばあさんは早速宝箱を家に持ち帰り、おじいさんと宝箱を開けたのだった。

 宝箱の中にはなんと小さな男の子が入っていた。

 おじいさんとおばあさんはその子供に「宝太郎」と名付けてそれは大切に育てた。


 将来はきっと立派な桃太郎になると信じて。


 ある日の朝、おじいさんとおばあさんは宝太郎を村はずれの長者の所へ連れて行き、とうとう旅に出す事を決めたのだ。


「そういう訳なのじゃ。」


 おじいさんが宝太郎に長いひげを撫でながらそんな昔の話を語り聞かせた。


「いや、全然意味が分からないから。」


 そのおじいさんに冷静に突っ込みを返す宝太郎。


「ほら、宝太郎や桃団子ですよ。」


 おばあさんが宝太郎に桃団子の入った袋を手渡す。


 ピロリン♪


-宝太郎は桃団子を3つ手に入れた-


 なぜかピロリンと音がして頭の中にメッセージが響く。


「さぁ、宝太郎や、旅に出て困っている人を助けるのじゃ!」


「鬼退治よ宝太郎。」


 おじいさんとおばあさんが楽しげに宝太郎に告げる。


「………。」


「おぉ、忘れておった。餞別に家の横に置いておいた薪を持って行くといいぞ。」


「え、餞別が…薪?」


 おじいさんがニヤリと笑い決めポーズをとる。


「君は桃太郎になれる!」


「行っていらっしゃい宝太郎や。」


「って桃から生まれてないから桃太郎にはなれないよ!」


 宝太郎が叫ぶが二人にずいずいと家から追い出さていく。


「ちょ、まだ旅の準備が…。」


「つべこべ言わずに行くのじゃ!」


「気を付けて行くのですよ宝太郎。」


 ぽいっと家から放り出されて唖然として立ち尽くす宝太郎。


「問答無用で追い出されたな…薪でも拾って行くか。」


 家の横に回って薪を回収しに行く。


「お、分かりやすい所に薪がある。これだな!」


 宝太郎が手を伸ばすとぴょこりと薪に動くものがあった。


「ふわぁあああ!よく寝たなぁ。ってここどこよ!」


 透明の羽は光に当たってきらきらと光り、緑色の髪がびょこりと跳ねた小さな妖精がそこに居た。


「わ、妖精か?」


「あら、初めましてね。私はキジェダよ。」


「え?キジだ?」


「違う!キジェダ。全くもう。それで、貴方は?」


 ぷんすか頬を膨らませた妖精は宝太郎の頬を突いた。小さいので全くダメージにならない。


「俺は宝太郎だ。」


「そっか、よろしくねオレハタカラタロウちゃん。」


「俺の名前は…は余計だろ!」


「ぷーくすくす。宜しくね宝太郎ちゃん。」


 お腹を抱えて笑う妖精に宝太郎はジト目を向けた。


「絶対ワザとだろ!てか、ちゃん付けはやめろよな。」


「はいはい。宝太郎ちゃん。」


「………。」


 なおも笑い続ける妖精に宝太郎は訂正させるのを諦めた。


「ところで、宝太郎ちゃんはこれからどこに行くの?」


 ひとしきり笑い終わったらしい妖精は宝太郎の周りを飛び回りながら尋ねる。


「ん?村はずれの長者の元へ行く予定だ。でも何でだ?」


「ここから西に進んだ森の奥の幸せの木に私のお家があるんだけど、連れて行って欲しいな?」


 ピロリン♪


-キジェダは上目づかいを使った-


 ピロリンと音がして目の前に選択肢が表示される。


 連れていく/連れていく


「ってどっちも同じじゃないか!」


「てへっ」


 宝太郎の叫びにキジェダがいたずらっぽく笑った。


-妖精はいたずら好きなのである-


「はい?」


「じゃ、これ貰うねぇ。」


 宝太郎の腰に下げた袋から桃団子を取り出してキジェダが食べた。


「ちょ、それは…。」


 ピロリン♪


-キジェダが仲間になった-


-宝太郎は幸せの薪を手に入れた-


「なんでだよ!」


 宝太郎の空しい叫び声が響き渡った。


「取り敢えず、長者の所が先だからな。」


「勿論だよ宝太郎ちゃん!ごーごー」


 宝太郎の頭にキジェダが乗っかって髪をまるで操縦でもしているかのように前後左右に動かして引っ張っている。


「ちょ、痛い…やめ、は…禿げるから!」


 涙目になりながら村はずれの長者の元へと歩いて行った。長者の家はすぐに見つかる。


「よく来たな!次代の勇者よ。」


「いや、勇者じゃないし!」


 思わず勢いよく突っ込みを入れるが宝太郎は長者の格好を見て固まった。

 桃の絵が刺繍された服に頭には日の本の印がついた鉢巻を付けている。腰には刀を下げており、どう見てもただの長者には見えなかった。


「あ、怪しい人だ。」


 キジェダが笑いながら指をさす。


「こら、人を指さしてはいけませんって言うだろ。」


 宝太郎が気持ち同意しながらもキジェダを頭の上から下してしっかりと握った。


「ちょっと、宝太郎ちゃん私を潰す気なの?」


 きーきーと叫びながら暴れているが妖精は小さい為、全くダメージにならない。

 なぜ髪を引っ張るのだけはダメージが通るのかと宝太郎は疑問に思った。


「あの、おじいさんとおばあさんから言われて来たんですけど。」


 ぶっちゃけると何の目的でここに来る必要があったのかさっぱり分かっていない宝太郎だった。


「なんと、ではやはり次代の勇者ではないか!」


「いえ、勇者ではありません。」


「いや、間違ってはいない。ここに来たという事はだ。君は鬼退治をしに行くのだろう?」


「そういえば、そういう理由で旅に出ろって言っていたな。」


 すっかりと正規の目的を忘れている宝太郎。そのまま長者の所へ向かうのも忘れてしまえば目的もなく彷徨う事になっただろう。


「私は桃太郎だった男だ。」


「は、はぁ。」


「だが、鬼退治が終わったらただの人だ。」


「まぁそうですよね。ずっと鬼退治なんてできませんし。」


「そこで、次なる世代に桃太郎としての心構えを伝える役目をと考えていてだな。」


「なるほど。では、教えて頂けるのですね。」


「うむ。団子は持ってきたか?」


「はい。」


 宝太郎は腰に付けた袋へちらりと目を向ける。


「それを与えたものは旅の仲間になるのだ。」


「あぁ、なるほど。」


 先ほどのキジェダの行動がやっと理解できた宝太郎だった。


「そして鬼ヶ島に向かうまでに3人の仲間を見つけるのだ。」


「ほほう。」


「最後は島に忍び込んで鬼を殺して宝を手に入れる。」


「え、それって強盗ですよね…。」


 宝太郎の言葉に目を泳がせながら長者はびしりとポーズをとる。


「君は桃太郎になれる!」


「いや、ならないから。」


 宝太郎の冷静な突っ込みが入るが、話は終わったとばかりに長者は沈黙した。


 ピロリン♪


-宝太郎は【称号】桃太郎を継ぐものを得た-


 ぴろりんと音がして頭の中でメッセージが響く。


「いや、継がないし!てか称号って何の意味もないじゃん。」


 宝太郎の叫びが響くがそれに応えるものはいなかった。


 キジェダを連れて西の森へと向かった宝太郎。そこで拾った手紙を見て首を傾げる。

 目の前にはポストがあり明らかに入れてくれと書いてあるかのようだ。


「えい。」


 ピロリン♪


-宝太郎はポストに手紙を投函した-


 ぴろりんと音がして頭の中にメッセージが響いた。


 すると、目の前の森がゴゴゴと音を立てて変化する。


「道が開けた!」


「あ、その奥の所が私の家だよ。」


 キジェダが喜びの声を上げた。

 その奥で待っていたのは魔木の一種トレントと呼ばれる魔物だった。


「あ、トレントちゃん!」


「ギ…ニンゲン、ユルサナイ。」


 突然襲い掛かって来たトレントと応戦する宝太郎。

 何とか勝利をしてトレントを倒すことが出来た。


「あ、あれ?キジェダちゃんだ。本物?」


 トレントが目を覚ましてキジェダに気が付く。どうやら先ほどの様子と違って話が分かるようだ。


「ちゃんと本物だよぉ。でも驚いたなトレントちゃんが暴れるなんて。」


「だって、僕の枝ごとキジェダちゃんが連れ去られてしまったんだよ!気が付いたら目の前が真っ赤になったんだ。」


「………。」


 その言葉に宝太郎は原因となった二人の顔が頭に浮かんだが何も知らない事にした。


「そこにいる宝太郎ちゃんが連れて来てくれたの。ありがとうね宝太郎ちゃん。」


「あの、貴方がお持ちのそれはもしかして私の枝ではありませんか?」


「あぁ、これか。」


 餞別でもらった薪ではあるが、もとはトレントちゃんの物であることは変わりがない。


「できれば返していただきたいのですが。」


 ピロリン♪


-幸せの薪を返しますか?-


 ぴろりんと音がして選択肢が表示される。


 返す/返さない


「いいぞ。返す。」


-宝太郎は幸せの薪をトレントちゃんに返した-


 ぴろりんと音がして頭の中にメッセージが響いた。


「ではお礼にこちらを。」


 トレントちゃんは宝太郎に何かのカギを渡した。


「これは?」


「空から落ちてきたものなのでそれが何なのかは知りません。ただ何かお役に立つかもしれませんのでどうぞお持ちください。」


「ありがとう。」


 ピロリン♪


-何かのカギを手に入れた-


 ぴろりんと音がして頭の中にメッセージが響いた。


「宝太郎ちゃんお家に送ってくれてありがとう。」


「うん?そう言えばそうだった。」


 桃団子を食べてしまったが抜けても大丈夫なのだろうかという疑問が浮かんだが宝太郎は気にしないことにした。


「じゃあ、これを渡しておくね。」


 ピロリン♪


-藁人形を手に入れた-


 ぴろりんと音がして頭の中にメッセージが響いた。


「って、なんだこれ!呪いの道具?」


「違うよ、それがあれば変わり身ができるからいつでも移動が出来るんだよ。」


「…何も藁人形じゃなくても。」


 宝太郎は微妙にキジェダの顔に似た奇妙な藁人形を手に引きつった表情を浮かべた。


「だって、作り方は一緒だもん。」


「………。」


 ぷうと頬を膨らませたキジェダは宝太郎の髪の毛をぶちりと抜いた。


「ぎゃー!って何するんだよ。」


「これで宝太郎ちゃんの人形も作ってあげるね。」


 にんまりと笑うキジェダに宝太郎は顔を青ざめさせた。


「や、やめようキジェダ。それは駄目なやつだ。」


「宝太郎ちゃんバイバイ。」


 宝太郎の言葉は無視してキジェダは宝太郎を森の外へと送り出した。


「うわぁああ!」


 突然目の前が暗くなりあっという間に森の外へと放り出される。


「びっくりした。」


 ピロリン♪


-取得物から次の目的地が設定されました。ウォルスの街へと向かってください-


 ぴろりんと音がして頭の中にメッセージが響いた。


「な、なんだ?ウォルスの街?」


 どうやら先ほど手に入れたカギはウォルスの街へ関係があるようだ。宝太郎はウォルスの街へと歩き出した。


 水の都、ウォルス。この地は神によって守られていると言われている。

 きょろきょろと周りを見ながら宝太郎はウォルスの街を歩いて行く。すると煙をあげる勢いで走ってくる少年が宝太郎にぶつかって来た。


「うわっ。」


 宝太郎にぶつかった人物はすぐに起き上がると宝太郎を指さして声を上げた。

 青い髪はつんつんと逆立っている。まるで蛮族のような格好の人物だ。


「おい、お前名前は?」


「えっと、宝太郎です。」


「そうか、宝太郎。お前、手紙をポストに入れただろう?」


「そう言えば、そういう事もありましたね。」


 宝太郎は森で手紙をポストへ入れたのを思い出した。


「普通、手紙を送ったら返事を待つだろう!」


「えっと、それが何か?」


「せっかく復活のポストから蘇ったのに誰も居ないし、慌てて追いかけて来たんだぞ!」


「…普通ポストの前では待たないと思う。」


「とにかく、俺はお前に付いて行くからな。」


「はい?」


 無理やり宝太郎の腰から桃団子を取り出して口に放り込む。


「俺はワン太よろしくな。」


 ピロリン♪


-ワン太が仲間になった-


 ぴろりんと音がして頭の中にメッセージが響いた。


「なんで仲間になるやつ皆団子を強奪していくんだよ!」


 宝太郎の叫びがウォレスの街に響いた。


「どこまでも主人を追いかける。ワン太はそのまんま犬なのか…。」


「何か言ったか?」


「なんでもないよ。」


 首を横に振って歩き出そうとしたその時、大きな溜息が聞こえて思わず振り返った。


「はぁ、ウォレス様どこへ行ったんですか。」


 茶色のくりんくりんな髪の神官がとぼとぼと歩いている。


「あの、何かあったのですか?」


「それがかれこれ十数年もの間、ウォレスの神がお隠れになっているのです。」


 悲しげな声を上げる神官はだばーと涙を流す。涙と共に鼻水が流れ出た。


「わだし、どうしたらいいのか…。」


「うわぁ…。」


 すごい顔になった神官にどう反応したらいいのか分からず、神が居なくなった経緯を確認する。


「そう、あれは日課の宝物庫の中を確かめていた時の事…。」


 何か深い話がありそうな雰囲気に宝太郎はごくりとつばを飲み込んだ。


「気が付いたらウォレス様は消えていたのです。」


「中身薄っ!というか話し終わるの早すぎ。」


 思わず宝太郎は神官に突っ込みを入れた。

 そして、一緒に宝物庫を見てみる事にした。


「なぁ、あの宝箱は何だ?」


 まるで鎮座されているかのように部屋の真ん中に置いてあるそれに宝太郎はその周りをぐるりと回る。


「怪しい、実に怪しい宝箱だぞ。」


「いや、宝物庫に宝箱は当然だと思うが…。」


 ワン太が呆れたように呟いた。


「俺はこれまで宝箱を見たことは無い!」


「それ、関係なくないか?」


「もちろん、俺が入っていた宝箱を除いてだが。」


「宝箱に入っていたのかよ!」


 思わずワン太が突っ込んだ。


「物語では定番だろう?宝箱。だがしかし、そこら中から湧いてくる宝箱などそうそうあるわけがない。」


「いやだからここは宝物庫。」


「宝とは海中や洞窟の奥底を汗水垂らしながら探すものだ!」


「そんな力説されても…。」


 宝太郎の言葉にワン太はげんなりとした表情を浮かべた。


「こんなに堂々と、しかも仕掛けもなく置いてあるこれは不自然だ。ふふ、これは、あれだよワトソン君。」


「いや、俺はワン太だ。」


「チッ、チッ、チッ甘い、甘いぞワトソン君。いいかね?これは単なる宝箱ではない。」


「もうどうでもいい…。」


 半ば諦めたようなワン太の表情に傍にいた神官が同情の念を送っている。


「そうこれは宝に擬態するミミックという魔物に違いない。」


「…なんですってー!」


 神官が思わず叫び声を上げた。神聖なる神殿の中にある宝物庫に魔物が入り込んだなどあってはならない事だ。


「という事で、さっさと燃やしてしまおう。」


「燃やすっていきなり何をってマジで燃やしているし!」


 慌てた神官が宝箱を魔法で燃やし始めていた。


「ギャー熱ぃいいい!」


「やっぱり魔物だったのか。」


 宝太郎の言葉にワン太はそんなバカなと驚く。


「えぇい、私は魔物ではない!この地の神だ。だれか早く火を消してくれ!」


「え?」


「ウォレス様?た、大変だ!すぐに、すぐに火を…。」


 慌てて消化する神官。宝箱はなんと宝太郎が持っていた鍵で普通に開いた。

 宝箱の中には、神様が詰まっていた。全員で引っこ抜く。


「うんとこしょ、どっこいしょ。」


「ぎゃー体が千切れる!」


「うんとこしょ、どっこいしょ。」


 きゅぽーんという音と共にウォレス神が箱から飛び出した。

 長いひげを蓄えたおじいさんだった。


「はぁ、死ぬかと思った。」


「ウォレス様、なぜあんな箱の中に…。」


「む?お前はサルーンではないか。久しぶりだな。」


 詰め寄る神官に朗らかに挨拶をするウォレス神。


「のんきに挨拶なんてしている場合じゃありません。ずっとお探ししていたのですよ?」


「うぐ、お前は私の傷に塩を塗り込むつもりなのか。」


 そのままスルーしようと考えていたウォレスはふと見知らぬ二人の姿を目に留めた。

 そして一人の腰にあるものを見てにやりと笑う。


「さて、私を救ってくれた二人にお礼をしなければ。彼らに付いて行き、旅を助けなさいサルーン。これは、神の命令だ。」


「な、私には神殿に仕えるという使命が…。」


「神の命に従うのが神官の使命であろう?」


「わ、分かりました。行きます。それで宜しいのですね。」


「うむ。よろしく頼むぞサルーンよ。」


 がっくりと項垂れたままサルーンは宝太郎に向き合う。


「我が神を助けて頂きありがとうございました。旅に同行させていただきます。」


 サルーンはそう言うとむんずと宝太郎の袋から桃団子を取り出してぱくりと口にする。


「また俺の了承なしに団子を…。」


宝太郎が力なく呟く傍でいつもの音が流れる。


 ピロリン♪


-サルーンが仲間になった-


 ぴろりんと音がして頭の中にメッセージが響いた。


「君は桃太郎になれる!」


 お決まりのようにウォレス神がびしりとポーズをとった。


「いや、なれないから。」


 宝太郎が力なく答えた。その時、宝太郎の懐に遭った藁人形がぴかりと光る。


「呼ばれてうっかりキジェダちゃん登場!」


 びしりとポーズを決めてキジェダと藁人形が入れ替わった。


「うお!」


 服の中でもごもごと動くキジェダに宝太郎は慌ててキジェダを取り出した。


 ピロリン♪


-宝太郎人形を手に入れた-


 ぴろりんと音がして頭の中にメッセージが響いた。


「は?」


 メッセージの意味が分からずに宝太郎は手に持ったキジェダに視線を向ける。

 キジェダが抱えているのはキジェダと同じくらいの大きさの宝太郎人形だった。


「まじで作ったの?」


 げんなりと宝太郎はキジェダから人形を受け取る。


「おぉ、なんと見事な人形だ!」


 ウォレス神がその人形を宝太郎の手から奪うように取り去った。

 くるくると回って喜んでいるウォレス神に唖然とする。


「よし、これをくれたら不思議な小槌をくれてやろう。」


 ひしりと抱きしめてウォレス神は宝太郎に告げる。


「え、それ俺の髪が…。」


 ピロリン♪


-宝太郎人形を渡しますか?-


 ぴろりんと音がして選択肢が表示される。


 渡す/渡す


「って選択し一つしかないし!」


 思わず宝太郎が叫ぶ。


「ふふふ、可愛がってやるから安心するとよい。」


「いや、おじいさんの姿で言われても…。」


 ピロリン♪


-不思議な小槌を手に入れた-


 ぴろりんと音がして頭の中にメッセージが響いた。


 これ、ほぼ強制じゃないかと内心で思いつつ小槌を手に持つ宝太郎。


「その小槌を振るうとその者にとって必要な場所に転移できるのだ。すごいだろう?」


「えい。」


-宝太郎は小槌を振るった-


 ぱぁあああと光が広がり、目の前には宝の山が…。


「いきなり転移するなよ!」


 思わずワン太が叫んだ。


「というか、ここはどこだ?」


 宝の山を前に全員が首を傾げる。そんな時、扉を開いて入ってきたのはなんと豚の魔物だった。


「誰だ、このオーガストン様の家に勝手に上がり込んだのは?」


「どうも、宝太郎です。鬼退治に来ました。」


 すんなり手を挙げて答えた宝太郎。


「何、鬼退治だと?俺が何かしたのか?」


「え?君は豚だよね?」


「誰が豚だって?」


「いやお前だろ。」


 ワン太が冷静に突っ込んだ。わなわなと震えるオーガストン。怒りに震えるオーガストンが襲い掛かってきた。

 全員でオーガストンと対峙する。

 なぜかやたらと強いオーガストンを倒した宝太郎とその一行。

 外に出るとそこは鬼が島だった。


「なんで豚が鬼なんだ!」


 ワン太が叫ぶがそれに応えるものは居なかった。鬼が島を探検して回る一行、鬼ヶ島の裏側にはなぜか家があった。


「おや、誰かと思えば…。」


 そこには鬼ヶ島で暮らす夫婦が住んでいた。


「まぁ、鬼退治にわざわざいらしたのね。」


「えぇ、鬼は先ほど退治してきましたよ。」


「ところで、貴方が宝箱に入っていたというのは本当の事ですか?」


「えぇ、そう聞いていますが…。」


「貴方!見つかったわ。」


「本当か?妻よ。」


「私たちの息子よ。貴方!」


「なんだってー!」


 夫婦は泣く泣く話を始めた。


「それは、妻が子供を背負って納屋の掃除をしている時のことでした。川の傍でひとつひとつ虫干ししながら片づけていた妻でしたが、気が付くと背負い紐が解けて子供がいなくなっていたのです。宝箱が1つ消えており、川に流されたのではないかと妻は嘆いていました。まさか、こんなに立派になって帰ってくるとは。」


 驚きの再会に一同は心行くまで語り合った。

 その後、鬼ヶ島は宝太郎が占拠し、金銀財宝を持っておじいさんとおばあさんに届けた。

 そして、その後鬼ヶ島に移住して宝太郎と仲間たちは幸せに暮らしましたとさ。


-END-


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