第222話 魔王に怒る
「さあ、妾があなた達にヒーリングを掛けてあげるのじゃ」
エルラエル妃が癒しの魔法を発動した。
「のじゃ……?」
天使の見た目に反し「のじゃ」の一言が、強いギャップになり有難味が半減する。なんといっても気高そうな天使様が「のじゃ」言葉を使うのだから。
黙っていれば、気品溢れる高貴そうな天使に見えるのに。
傷付いた皆を癒してくれて有難いけれど、この天使様は魔王の側だし。
人質に捕らわれていただろう五人の女性達は魔王の近くへ集まっていく。
五人はシレラ・ミモ・タリマ・ピルアーナとウビハイニルだ。
その光景にアルザス達は呆然としている。
「何で人質達が楽しそうに魔王たちと語らっている」
「俺達は騙されたのか?」
悔しそうな顔をする一同。
魔王の妃一人に全員が惨敗した、惨めだが彼女はアマゾネスでもある。
トラウマも加わり、もはや反撃する意欲も湧いてこない。
「騙したなんて心外だね」
シレラは腰に手を当てアルザス達に反論する、
彼女達は呆れ顔でジト目を送って来る。
「私達はただのギャラリーなの、わかった?」
結界らしき薄い青色の光は、飛散物防止のバリアーで、
安全性を確保していただけだったそうだ。
「そうであります、勝手に勘違いされても困るでありますよ」
発言は無いが、皆の顔をキョロキョロ見渡すうっとり顔のウビハイニルが横にいる。ノルナ妃の闘いに魅了され、シレラ達の神気に気圧されている様子。
言われてみれば魔王の口から、彼女達が人質だとは言ってはいない。
完全にアルザス達の勘違いだ。
ニホバル魔王はアルザス達に最後の一押しを仕掛ける。
「お前達は武器も防具も失った様子、
それではこれから先困るだろう、故に手を差し伸べてやろう」
魔王の合図で鎧騎士たちが大きな宝箱を二つ持って来て床に置いて行く。
箱にはそれぞれ『呪いの装備』『祝いの装備』と書かれたプレートが付いている。
「一つを選ばせてやろうではないか、どちらか選べ」
今度は何を企んでいる? と顔を見合わせるアルザス達。
彼らは既に王家の至宝の剣・鎧は砕かれ、絶体絶命状態にある事は否めない。
「『呪いの装備』は何となく想像がつくな」
「そうですね。 仲間同士が傷付け合うとか、魔王の奴隷にされるとか」
「『祝いの装備』って何だ? 胡散臭いというか……」
「どちらにしても『呪いの装備』なんて受け取れないから、
選択肢は無さそうだな」
「宜しい、『祝いの装備』だな? しっかりと持ち帰れよ?
ここで箱を開けるんじゃないぞ」
魔王は『祝いの装備』に忌避感でもあるように見える。
魔王が忌避するくらいなら、こちらは当たりだ。
「そちらの妃に俺達の装備は皆破壊された、有難くこちらを頂いて行く」
「ヒュドラをも斃すような奴に俺達が敵う訳が無かったんだな」
ダマロスはそう考えた。
以前聞いたヒュドラを斃した姫の一人じゃなかろうかと。
あれほど強いノルナ妃だ、姫だった頃やったに違いないだろう。
「私がヒュドラを? 人違いじゃないの?
まだそういうの相手にした事無いし」
ノルナ妃が否定する。
そんな莫迦な、あれほど強い奴以外に一体誰が……。
「それは私ですね、ノイミラ姫様達と旅をした頃に」
一番印象が薄そうなタリエル妃が名乗り出た。
決して強そうに見えないタリエル妃が斃したと言う。
「嘘だろ……」
タリエル妃はどう見ても強そうには見えないし、強者のオーラも無い。
だが、あの街に記録はあるし、本人がそう言っているなら事実かも知れない。
魔族の底の見えない実力に寒気が走る。
元来た道を帰されるアルザス達。
ニホバル魔王にとって彼らの使い道が思い浮かばない。
そうなれば、土産を持って帰ってもらった方が良い。
魔族に騎士達に街門の外まで案内され、馬も返された。
「散々だったな」
「でだ、魔王が忌避した『祝いの装備』って何が入ってるんだ?」
期待しながら開けた箱の中身を見て気落ちする一同。
「これは何だ?」
アルザスとダマロス、キポック老師が手にとって調べてみる。
『結婚祝い金銀の夫婦ペアタンブラー』
説明書には、夫婦仲が良くなると書かれている。
「これは?」
『祝い箸』友人からの祝福で食事が旨くなるでしょうという説明書が。
「これは? 聖杯とか? いや違うな」
『球技優勝祝いのトロフィー』と『盾』
幸運と栄誉が少し上がるとプレートに書かれている。
この盾は防具に使えそうに無い。
次の得体の知れない物を取り出してみる。
『女児祝の吊し雛』
無病息災の願いが込められているらしい。
『祝いの千羽鶴のマント』
みんなの祈りが込められ、結集した優れ物らしい。
『口座開設祝いの羽ペン』
ギルドの窓口でもらえる粗品だ、メモ書きに使える。
『祝い用品交換ギフト券』
祝い返しで用意される冊子だ。
色々な品が載っている、しかし欲しい物が何も無い。
『缶詰め詰め合わせギフト』
豪華贈答用果物缶詰の詰め合わせ、但し缶切りが無い。
中身を見て真っ白になって燃え尽きるアルザス達。
「ガラクタばかりじゃねえか」
「いや、廃棄物なんじゃ?」
一応祝いの品々かもしれないが、どれも嬉しくない物ばかり。
本当に嬉しくも有難くも無い。
魔王の土産に怒りが込上げて来る。
道理で魔王も嫌がる訳だ。
「取り合えず缶詰だけは食料になりそうですね」
悔しがるアルザス達一行。
完全に遊ばれた訳だ。
「ちっくしょう、敵わないまでも文句の一つでも言ってやりたい」
「そうだな、俺も気が済まないぞ」
魔王と戦うどころか、妃一人に全員が叩きのめされ、
ガラクタを土産に持たされたのだから。
一同は踵を返し、魔王城へと向っていった。
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