第221話 魔王城の戦い
アルザス達一行は門前で躓きはしたが、皆は渋々と血判を押し入城を許された。
「入城の際、注意事項として矢印に沿ってお進み下さい」
『会見希望者申請書』を受け取った官吏から、注意事項を告げられる。
他には立ち入り禁止の場所には、立ち入らぬ事と念を押された。
「くっそー、完全に遊ばれてるな」
「
アルザス達一行は、これまでの対応に怒りが込上げてきた。
「討伐隊を何だと思ってやがる」
ムカムカしながら、矢印に沿って廊下を進んで行く。
「何なの、この音楽は……」
不快そうにラシチャニが耳を傾ける。
不気味で余計にイライラ来る音楽がどこかから聞こえて来る。
階段を上がると曲も変わる。
一層不気味な音楽だ。
「魔王城は不気味ってか?」
ダマロスが吐き捨てるように口を開く。
城内の雰囲気は音楽以外、代わり映えの無い石造りの普通の城だった。
魔王の城と言われなければ、十分普通の城として通用する。
「注意せよ、これは魔王の策略に違いない、罠に注意だ」
キポック老師は皆に注意を喚起する。
「そうだったな、これ以上魔王の心理戦に絡め取られないようにしないと」
アルザスは我を取り戻そうと気を引き締める。
時々見かける通行禁止のバリケードにも、気持ちを揺るがさないように気を強く持つようにした。
やがて矢印は一つの重厚な扉を指し示す。
「この先に魔王が待ち構えているのか」
「判り易い魔王だこと」
「完全に俺達は遊ばれてるな」
重量のある扉ではあったが、それほどの苦労は無く開いて行く。
扉の先の光景にアルザス達は、思わず息を呑んだ。
まるで違う雰囲気、いかにも魔王の居城に相応しい風景がそこに在る。
ひょっとして、今までいた世界と別な世界に誘い込まれたのか?
異様な雰囲気に一行の足は止まる。
奥まった所に禍々しい玉座があり、魔王と思しき者が座っている。
魔王の周りには数名の人影が見え、更に両横の壁には魔族騎士達が勢揃いしている。
「どうやら、奴が魔王か」
「グハハハハ、やっと来たか勇者共、待ち兼ねたぞ」
魔王の方から声が掛かる。
間違いないだろう、恐ろしげな魔王がアルザス達を睥睨する。
魔王から炎まで発しているのが見える。
「何と恐ろしげな禍々しい魔王だ」
否が応でも高まる緊張感。
「アルザス、見ろ」
ダマロスが何か見つけた様子。
向ける視線の先に、薄い青色の光に囲まれている人質らしき女性が五人いる。
結界にでも閉じ込められているのか?
「彼女達が誰か知らないが、人質とは何と卑怯な」
「フハハハ、
卑怯は魔王にとって褒め言葉よ、卑怯じゃない魔王なんているか?」
不敵に笑う魔王。
更にあたりを見回せば、一角に別の空間が見えるじゃないか。
その空間の先に大勢の人の姿が見える。
兵士では無いようだが。
「何だ? 何故あそこに楽団が?」
先の空間に見えた大勢の人影は楽団だった。
「驚いたか、オレは音楽魔王だからな」
なぜか勝ち誇る魔王。
「そうか、来る途中に聞こえた音楽はあそこで奏でたのか」
意外過ぎる物事に言葉を失うキポック老師。
「しかし、音楽が戦いに何の役に立つというの」
腑に落ちないラシチャニ。
「まさか、音楽に魔力を乗せ攻撃をするとか?」
キポック老師も訳がわからない。
こんな事は初めてで、どう対応すれば良いのかすら解らない。
「音楽の力、舐めない方が良いぞ」
魔王が合図を送ると、楽団は演奏を開始した。
ホンワカホンワカと余りにも間の抜けた音楽が流れてくる。
「さあ、これで戦ってみろ」
「くっ、なんて戦い難いの」
「それにしても、魔王の両横に控えているのは何者だろう」
貴族だろう女性が二人、もう一人は男性貴族だろうか。
「天使まで控えているじゃないか」
「なぜ天使が……」
「お前達、掛かって来ないのか? 来ないなら、こちらから行くぞ」
魔王の合図で、右横に控えていた貴族の青年がBGMと共に前に進み出る。
「………」
もはや何を言えば良いのか解らない。
アルザス一同は武器に手を掛け、身構える。
「何だ、この音楽は、格好良いじゃねぇかよ」
「準備運動するから、ちょっと待っていてもらおうか」
貴族の青年は上着を脱いで、タンクトップ姿になった。
その姿は男ではない、女性だ、あの貴族服の者は女性だったのか。
「……彼女と戦うのか?」
その女性はフン、フン、とスクワットを始める。
一屈伸毎に筋肉がメキメキと盛り上がっていく。
「これくらいで良いか」
その女性は心なしか、身長まで大きくなっているではないか。
パンプアップでの全身筋肉の盛り上がりも凄まじい。
女性の正体はノルナ妃だが、アルザス達には知るよしも無い
「何なんだ、こんな魔族がいるのか?」
ノルナ妃は腰のベルトのバックルを外して両手に装備する。
バックルは
リングの上に、敵の頭蓋骨を砕くための突起物が付いている。
ノルナがニホバル達と始めて出会った頃に使っていた武器だ。
「さあ来い! 来なきゃこっちから行くぞー」
BGMが変わり戦闘に移行する。
両手で握る打撃用の武器で戦うつもりなんだろうか。
剣を受け裁いても、拳が無事じゃ済まないだろうに。
アルザス達一行五人に一人で戦いを挑むノルナ妃。
三方から囲んで応戦するが、剣も槍も斧もノルナに一撃を与える事が出来ない。
ヒラリヒラリと躱され、鋭いパンチを繰り出してくる。
「くっ、こいつは手練れだ」
ノルナ妃を囲うように密集にて戦うから、
何かを飛ばす技や魔法は、仲間を犠牲にし兼ねない。
「せいっ!」
ガキン! バキキキ!
「ぐわ!」
アルザスの剣はノルナ妃に一太刀も浴びせられず、握った
弾いた瞬間、もう一つの手のパンチが飛んだ。
辛うじて受けた盾は鎧ごとパンチで砕かれ、アルザスの肋骨を砕く。
「りゃりゃりゃりゃ!」
バシシシ!
「うぐ!」
ダマロスは槍を突き出すが、間合いに入られ反撃にもたついてしまう。間合いに入られた刹那、脚にキックの連打をくらい痛みと痺れで移動力を奪われる。アルザス達の連携攻撃陣を物ともしないノルナ妃の攻撃に陣は敢え無く瓦解した。
「ほいっ!」
ビキン!
「うおっ!」
ハバムはハルバートを振り抜くが、横に避け瞬間的に間合いに入って来る。
密着状態では、振り回して重撃を繰り出すハルバートは使えない。すかさず手斧に持ち代えるが、手斧を持つ腕にパンチを食らい、武器を手放してしまう。
ノルナ妃の一撃で腕の骨が折れたのかもしれない、右腕が使えず激痛が走る。
「キポック、強化魔法だ、急げ!」
「ラシチャニ、戦闘に入れ!」
ノルナ妃のパンチは意識の外から繰り出され、対応は覚束ない。
そしてなぜか避けられない、受けるのは致命的なのにだ。受ければ剣も盾も鎧も破壊され、止まらぬ攻撃はアルザス達に的確なダメージを与えてくる。
彼らは以前にも、女性に圧倒された事がある。
今ではトラウマになったアサスウイアで。
「何なんだ、この女は」
「わからん、わからんが、あそこでのトラウマが蘇りそうだ」
「あそこってアサスウイアか? うりゃりゃりゃりゃ!」
バクン! ボキン! ゴキキン!
「ぐわ!」
頭にパンチを受けたダマロスが脳震盪で崩れ落ちる。
パンチを受けた槍はへし折れ、止まらぬパンチは鎧をも砕く。
既に倒れる仲間へ気を向ける余裕は無い。
「アサスウイアを知ってるのか」
「アサスウイアは私の出身国だからな」
ノルナ妃の一言に凍りつくアルザス達。
彼女は元アマゾネスだったのか。
激しさを増すBGMに切り替わった。
「よっしゃぁ、もっとガンガンいっくよー」
楽しそうな顔をしたノルナ妃のスピードと激しさがBGMに乗って益々上がっていく。魔法攻撃を仕掛けたいキポック老師だが、捕らえる事が出来ないでいる。
戦闘が始まって以来、呪文詠唱の隙さえノルナ妃相手に作れない。
大きな攻撃魔法は仲間を巻き込むから余計に使えない。
武道経験のあるラシチャニですら、ノルナ妃の動きを止められない。
動きに支障が出そうなメイスを使うのは不利になる。
四人を一度に相手をしているにも係わらずだ。
特訓を受けたアサスウイアにも、これほどのファイターはいなかった。
「はいっ!」
バキ!、バクン! ドカカカ! バキバキバキ!
「アグッ!」
ハバムは左手の手斧で応戦するが、頭部に蹴りを受け兜は凹み倒れ臥す。
追撃の蹴りで、鎧も手斧も破壊される。
「くっ、何て奴!」
「ひょう!」
ドコン! バシッ!
「アガッ!」
拳を受けた魔法の杖も真っ二つにへし折れる。
次の瞬間、キポック老師が一撃で殴り倒された。
「魔王退治に来たってのに、お前ら、この程度か? ふんっ!」
ドシュ!
「ウゲ!」
次にダマロスが殴り飛ばされ、床にバウンドする。
後方数m先で意識を失い横たわるダマロス。
これで既に三人が戦闘不能だ。
「魔王と戦う前に、私一人にお前達は負けるのか」
悔しそうにノルナ妃を睨むアルザスとラシチャニ。
「お前は一体何者なんだよ」
「私か? 私は魔王の妃ノルナだ」
「魔王の妃だと?」
「むん!」
バシュ! ゴクン!
「グガアァァ!」
一瞬の隙にアルザスは両足の骨を蹴り砕かれ崩れ去る。
皆アサスウイアで特訓を受けて来たにも係わらず、勝負にならなかった。
未だに誰一人ノルナ妃に一撃を入れた者はいない。
一撃すら入れられず、パンチと蹴りだけで皆やられてしまったのだ。
遂に残るはラシチャニ一人。
覚悟を決め、必死に武術で応戦するが、ノルナ妃にはまだ余裕が見える。
これだけ暴れていても、一向に息は上がっていない。
ズン!
「ウー」
突きも蹴りも受けられる事無く、繰り出す突きは
不意に脇腹にキドニーパンチの一撃をもらってラシチャニは蹲った。
内臓をやられ悶絶する。
「もう終わりか?」
反撃したくても、意識のあるのは両脚を砕かれたアルザスだけだ。
動く事すら出来ないでいる。
今の戦いで皆の武器も鎧も砕かれてしまったようだ。
「クソが、なんて凶暴な女だ」
「私は母上である女王より強いからな」
それはアマゾネス最強という事になる。
「しっかし、物足りないなー」
ガキンガキンと拳と拳を打ち鳴らす。
本当は光の速さで動けるのだから、手抜きの戦闘だ。
ノルナにとっては遊び以外の何物でもない。
誰が来ようと最初から勇者の負けは確定していた。
こうしてノルナ妃による公開処刑は終る。
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YoutubeのURLを張ってみる事にしました。
文面からは音楽は聞こえす。楽しんで頂ければ何よりです。
【城内の勇者】
https://www.youtube.com/watch?v=3gXqifnSjWI
グリーグ:《ペール・ギュント》第1組曲 「山の魔王の宮殿にて」
https://www.youtube.com/watch?v=O_x71AzGJ8A
ウルトラQ Op(CD版)
【対勇者戦】
https://www.youtube.com/watch?v=RjMJDJ0frBc
PEE WEE HUNT CD Vintage Jazz Swing Orchestra. Somebody Stole My Gal / Spain ...
ノルナ妃が勇者達相手に大暴れします。
【ノルナ戦闘BGM】
https://www.youtube.com/watch?v=6BfjKgLHET0
「力石徹のテーマ」 BGM バージョン("RIKIISHI Toru Theme"―BGM ver.)
https://www.youtube.com/watch?v=dCp67oWGHwY
初代ウルトラマン戦闘BGM(勝利)
https://www.youtube.com/watch?v=X-nSqaSr31Q
レーザーブレードメドレー
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