第215話 必殺、怪傑赤頭巾
様々な国と国交を結んでいる王都ザウィハーには、毎日多くの人々の出入りが盛んだ。商人や旅人、旅行者もあれば、冒険者たちも自由に出入りが許されている。人々や亜人たち、善人もいれば、宜しくない者も混ざり雑多な盛況を見せている。
ニホバル魔王が治安に力を入れているから、それ程酷い犯罪は起こり難かった。
それでも犯罪は起こる時は起こるもので、ある一軒の武器屋で殺人事件が起きてしまった。
「警備兵の皆さん、早く犯人を捕らえて下さい。
父さんと母さんが惨殺されるなんてあんまりだ」
現場検証の場で、事件の最中、運良く生き残った息子のボーダが涙ながら訴えている。
「犯人に関係する証拠品は見つかりましたかの?」
「証拠物件はまだ見つかりませんが、店主秘蔵の妖剣が盗まれたようです」
警備兵の女中隊長ウビハイニルが部下の兵士と話し合いをしている。最近、急激に中隊長の地位に上ってきた背の低い女性で、兵士の間では良い噂を聞かない。
ふわふわと捉え所の無い雰囲気で、覇気を感じられない中隊長だったりする。
「ほう、妖剣とな?」
「それがどういう物なのかは不明であります」
「つまり、物取りついでに店主と奥方に見つかり、殺害に至ったとか?」
「いえ、それも何とも言い難く、両被害者が腕を食われた形跡があります」
「今の現状では犯人の特定は出来ませぬのう」
「いえ、幸いにも一人のゴブリンを容疑者として捕獲しております」
「容疑者ですか、我も情報を集めてみようと思うから、この場は失礼しますよ」
中隊長は頼りない足取りで、どこかへ行ってしまった。
いつもの事か、と下級の警備兵達は上司を追求する気になれない様子。
大概に於いて、国に係わるような事件でなければ騎士団は動かない。
だから、街中の小さな事件は、警備隊が受け持つのだった。
例えるなら、軍隊と警察隊くらい仕事の分担が違う。
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警備隊詰め所から、一人の容疑者が王城の地下牢に移送された。
現場付近で血の付着した服を着ていた上に、アリバイがあやふやで不信感を持たれた為だ。
地下牢の中で
「さて、お前は何を隠している?」
鎖に繋がれた容疑者のゴブリンに感情を感じさせない声で語る。
「オレは関係無いんで、本当っす、だから何も知らない、信じてくれよ~」
容疑者のゴブリンは審問官に頭を掴まれ、身動きを封じられる。
残虐な性格を現すように口から伸びる舌は、容疑者を美味しい獲物とばかりに嘗め回す。
「そうなんだぁ、でも知らない範囲で話してもらうよぉ?
オレには隠し事は無駄なんだからさぁ?」
雰囲気の変わった
濃い血の臭い、血生臭く汚い匂いを漂わせる、血で染まってきた赤い帽子。
「何だ、何なんだ? その赤い帽子は?」
「そんな事、お前が知っても意味は無いよね~? ヒヒヒヒ」
目を細め、嬉しそうに口の端が上がり、ゆっくりと容疑者に近づいていく。
地下牢の一室から、凄まじい絶叫が響き、他の牢獄の囚人達は恐れ
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「いらっしゃい」
中隊長のウビハイニルは食事処にやって来た。
常連なんだろうか、勤務時間にここで食事をする事が多いようだ。
そんな姿を見る他の客の目からは、だらけた警備兵のちょっと偉い人と見られている。それでも、それなりの立場の者だから、何を言う人はいない。
「あー、おやじさん、これとこれね」
ウビハイニルはメニューを指差し注文をする。
しかし、これは他者の目を欺く姿で、注文された物は仲間だけに通じる暗符になっている。
「へい、お客様、ああこれですね、ではこちらに」
注文をしたビハイニルは特別室に案内されていく。
その姿を見ている客もいるが、あの警備兵は裏で賄賂でも受け取っているんじゃないの?と思われる。
ここは案内された特別室。
この部屋に窓は無い。
ビハイニルの他に先客が四人いる。
異常に厚い壁は外に話は漏れる事は無いだろう。
「さて、『元締め』武器屋の夫婦が惨殺された事件が起こった。
情報はあるか?」
「へへへ、御館様から元締めなんて呼ばれると、変な気分になりますねぇ」
「元締め、犯人の目途は?」
「今の所情報は何もねえんで。
王都の諜報機関は犯行が夜中だったため、機能が低下していたようで」
「諜報機関は植物の妖精らしいですね、あらゆる会話を秘密裏に傍受する」
「ああ、それなら夜中には弱そうだ」
「足りない情報の収集は我らレッドキャップスの領分でしょうな」
「われらの活躍、魔王様に誇れるように頑張ろうじゃないか」
「「「御意!」」」
蔓延る罪は放っては置けぬ、闇に潜む悪意はわれらの好物、王都の悪は引き受ける。 闇に暗躍する我らレッドキャップス暗殺隊。 それが我らの矜持。
「では、引き続き情報収集を頼むぞ」
「間もなく城からも情報が届くでしょう」
命令を発する女警備兵士ウビハイニル中隊長の目は怪しく光る。
この場での彼女の物腰は鋭く、衆目の見る姿じゃなかった。
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「ううう~。 父さ~ん、母さ~ん。 なんで俺達がこんな目に……」
酷い傷を負ってはいたが、治療魔法で命は無事の様子。
「少年、悔しいか?」
小柄で人の良さそうな顔の商人が声を掛けてくれる。
「悔しいです。 出来れば仇をとって奴等を殺してやりたい!」
「奴等? 仇は何人かいたのか?」
「うん、大きい奴が一人、小さいのが十人、たぶんゴブリンかもしれない……」
「大きいのは何だろうなぁ」
「判らない、たぶん凄く強い奴だ、父さんも母さんもそいつに食われた」
「相手が大勢いて強いなら、お前がその手で復讐するのは難しいだろう」
「じゃあどうすれば良いんだよ」
「お前の復讐、誰かに頼むならいくら出せる?
お前の力が弱いなら、強い奴に復讐を頼んだって良いんじゃないか?」
「そうだね、だけど今持ってるお金は金貨一枚しか無いんだ」
「金貨一枚か、おっちゃんに任せな、仇の討てる強い奴を用意してやる」
「ほんとう? 出来るなら頼むよおっちゃん!」
「よし、任せな」
小柄な商人のおじさんは胸元からチラと赤い布を見せた。
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深夜、元締めの食事処の一室の中。
「御館様、
惨殺された武器屋の息子さんから仕事の依頼を請けましたぜ、金貨一枚だが」
「犯人は大きな奴と、手下にゴブリンが十人」
「街外れの廃屋が、その一味の隠れ家になっている様子」
「お前達、良くやった! これから成敗に掛かるぞ」
「「「ヘイ」」」
赤い頭巾を纏ったウビハイニルの後ろで、皆赤い帽子を被って行く。
今回のメンバーは、愛剣ピュアブラッドを帯びた怪傑赤頭巾を筆頭に、
棺桶屋ゴード(刺突武器の
墓守のガベガ(極細の鋼の糸、張力で切断も出来る武器だが、他にも武器を使う)
鍼灸師バイヤン(殺人針で急所を一撃で決める)
整体師ガンテツ(無手だが、全身260個の関節外し・骨砕き・心臓握り潰しの技を習得)
レッドキャップスの怪傑赤頭巾にとって、これは夢に見たシチュエーションだ。
……ザウィハーの魔王は面白い事をさせてくれる。
我はそういう魔王様が好きになったぞ。
全員の心の中に大音量のテーマソングが鳴り響き、闇の中に出陣していく。
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「遅い、お前の手下の帰り、遅くないか?」
蝋燭の灯る薄暗い廃屋の一室内。
九名のゴブリンと一名、大柄な魔人が酒を酌み交わしている最中。
「先日、殺り残した武器屋の息子の様子を見張りに出たゲドゾーですかい」
「親分、ゲドゾーは捕まりましたぜ」
「ちっ、下手打ちやがったかよ」
親分ゴブリンのブカウゴの眼が光る。
「まあ、それでも口を割る事は考えにくいか」
仲間を売りはしないだろうが、下手すればゴブリン一味は、用心棒の大柄の魔人、ビクスラハ先生に喰われてしまうだろう。
ゴブリンにしても、気が気じゃない。
例え悪事で窮地に陥ったとしても、強い魔人であるビクスラハ先生がいれば逃げ
ゴブリン達は元々盗賊だ。
その一味を護る代償として、餌食になる者を攫って供給していた。
彼らはそんな共生関係を築いている。
「それで、お前はどうする?」
「まだ手下は八人いる、武器屋の倅くらい明日にでも攫って来れまさあ」
「明日だな? それ以上は待てん、空腹でオレが倒れそうだ」
そんな話をしている最中、玄関の方で音がしたようだ。
「ん? こんな夜中に廃屋に来る奴はいないと思うが」
手下の一人が様子を見に立ち上がった。
暗闇の中、玄関を凝視してみたが、何の気配も無さそうだ。
「気のせいか」
そう思い、振り返ろうとした瞬間、何者かに口を塞がれ、その場に倒れ臥した。
首筋の急所に殺し針を打たれたのだった。
「やけに遅いな、おい、どこだゾダ、ちょっと誰か呼んで来い」
もう一人のゴブリンが探しに行こうとドアを開けた。
赤い帽子を被り、五本の指の関節をゴキキキと鳴らす者がいた。
驚く瞬間、後ろ向きにされ、ゴグンと背骨の関節を外され、崩れ落ちる。
その後ろから三人の謎の侵入者が部屋の中に入り込む。
「な、何者だ、お前らは!」
ゴブリン達は一斉に剣を抜き、謎の侵入者に飛び掛って行った。
敵の奇襲に、先手必勝で対応を試みる。
ガキン!バキン!
ブカウゴの剣は変わった形の刺突武器の枝に絡め取られ、もう一つの刺突武器で叩き折られる。唖然とするゴブリンの頭。
加勢はどうしたと横を見れば、手下の何人かは鋼糸で拘束され、切刻まれている。
室内は謎の襲撃者により、乱戦に突入していた。
「クソが!」
一度体勢を改めなければ不利だ。
そう判断し、咄嗟に窓を蹴破り、廃屋の外に飛び出す魔人ビクスラハ。
来るだろう追っ手を注意し、振り向こうとした刹那、横の暗闇から声が掛かる。
「おや、用心棒の先生が真っ先に逃げるんですか? いけませんねぇ」
「誰だ、お前は!」
変わったデザインの赤い頭巾に顔を隠す小柄な女性がいる。
「私ですかい? 我は人呼んで怪傑赤頭巾!」
「はあっ? 何だそりゃ」
すかさず体制を立直し、妖剣を抜き放つ。
「ほう、剣を抜きなさったか、では我も剣を抜かせてもらう」
ジャリンと怪傑赤頭巾は金属の鞘から逆刃の刀を抜く。
「我が剣ピュアブラッドは
普通の剣は押し斬るように造られている。
しかし怪傑赤頭巾の愛剣ピュアブラッドは、元は大鎌の刃だから、湾曲した内側に刃が付いている。
対峙する相手を手前に引き込むように、斬戟を繰り出す。
そういう剣だから、一度捕らわれると後ろに逃げる事が出来ない。
「うりゃ!」
ビクスラハの正体は蜘蛛魔人である。
粘着性の糸を張り巡らせながら、妖剣に魔力を注ぎ込んでいく。
「ほう、お前の剣には暗い魔力が込められていくな」
「見えるのか、粘着糸で動きを封じられながら、余裕だな」
「正直厳しいですよ?
おまけに蜘蛛なだけに外骨格の体も硬いし、苦労します」
「「うりゃ!」」
ギン!ギン!ギン!ギン!
月明かりの元、両者は剣を数合打ち合った。
怪傑赤頭巾は小柄な分、力負けし始める。
ビクスラハの剣は打ち合いに強く、躱しても刃先から飛んでくる魔力の追い討ちから逃げきれない。動くたびに粘着糸の罠に追い込まれていく。
「くそ! こんな奴相手に苦戦するなんて、せめて粘着糸が無ければ」
そう心の中で叫んだ時、突如、張り巡っていく粘着糸に火がついて燃え、焼き払われた。
「何事か?」
ビクスラハは突然の出来事にあたりを見回した。
暗がりの中で見え難いが、緑色のフードとローブ、その下に金属鎧を着けているだろう男が佇んでいる。いや、目を凝らせば、その男の横にもう一人。
「大変そうだねー、助っ人いる?」
貴族服姿の男?
その割には女のような声だ。
「ありがたき申し入れ、だが、この賊は我が斃す!」
「そうなの、じゃあ見届けるからね、ガンバレー」
いきなり増えた敵にビクスラハは焦りを覚えた。
何者かと考える隙を与えないほど、怪傑赤頭巾の剣戟は激しさを増して行く。
ギン!ギン!ギン!
やがて廃屋内のゴブリン達は片付いたのか、赤い帽子の者達が集まりだした。
ヒュヒュヒュ
「くっ、小癪な、蜘蛛魔人のオレに糸で邪魔をするとは」
複数の鋼糸が放出され、ビクスラハの応戦の邪魔をする。
「今だ!」
一瞬の隙を突き、怪傑赤頭巾のピュアブラッドはビクスラハの頭を刈り取った。
ズバッ
刈り取られた頭部は体から切り離れ、鮮血を噴出しながら体は地面に崩れ落ちる。
「勝った」
この魔人との戦いは劣勢だったが、何とか辛勝出来た。
「誰だか知らぬが、お礼を言わねば」
怪傑赤頭巾が戦いを見届けてくれた者の方へ振り向いたが、
その人はオオオオオーという音、ライトの明りと共に走り去っていく。
「我もまだまだだな……。 芸術的には程遠いか」
「御館様、ご無事でしょうか?」
手下達は駆け寄ってきた。
「今のは誰なんだ?」
声をかけてくれたのが誰なのか、知る者はいないようだ。
まさか月の使者とは言うまいな。
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YoutubeのURLを張ってみる事にしました。
文面からは音楽は聞こえす。楽しんで頂ければ何よりです。
https://www.youtube.com/watch?v=PyyTyb9F5iQ
必殺!BGMメドレー いざ、出陣!!!
https://www.youtube.com/watch?v=nWDxenMhPds
必殺仕事人アクションBGM集
https://www.youtube.com/watch?v=5bDFpoCuBVE
必殺(SEあり)
https://www.youtube.com/watch?v=tUG-vfnahCg
月光仮面の歌 三船浩
https://www.youtube.com/watch?v=aq19O6TlZgQ
【 月光仮面 OP 歌詞付 】
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