第11話 用兵

数日後、ロンオロス王と重臣達、ニホバルとツェベリは屋外の練兵場にて、

1個大隊の兵達を前にしていた。


ニホバルは整列をしている500名の兵達に打ち合わせを指示する。

出す指示はたったの三つ。

どんな兵でも、三つだけの指示を理解出来ない者はいないはず。


「良いかお前たち、これから楽器を使って戦場に指示を出す。

角笛が鳴ったら進軍せよ。

進軍の際に太鼓を鳴らすから、太鼓の速度で進め。

銅鑼の音がジャンジャン鳴ったら撤退を即時に開始するのだ。解ったな?」



そして軍事演習が始まる、


「全軍進めー!」


「「「「おおおおおー」」」」


プオー プオー プオー


進軍が始まる。


ここまでは従来通りだ。

此処には新兵はいないから、皆慣れたものの筈だ。

演習だから一糸乱れぬ行軍行動が進行する。


進軍の最中、ニホバルの横でオーガが進軍のペースに合わせ太鼓を打ち鳴らす。


ドーン ドーン ドーン ドーン


軍の歩みは次第に太鼓のリズムに同調し始める。

太鼓のリズムが早くなれば、進軍の速度も速くなる

太鼓の音と雰囲気で軍団の戦意が徐々に高まる雰囲気は、

見学している王達にも十分伝わるようだ。


ラッパ手がいれば、突撃ラッパを鳴らす案も持っている。

楽団が揃えば心理的効果を抑揚させる音楽演奏をしても良い。


そして銅鑼が打ち鳴らされる。


ジャーンジャーンジャーンジャーン


隊列は即座に踵を返し逆方向へ走り出す。


「全軍停止ー!」


バラバラバラと軍団は止まりはじめる。



「うーむ。見事な用兵だな」


ロンオロス王が戦場で陣頭指揮を執る場合、「進めー」を連呼するだけで、

戦場全体に声が行き届く事は無い。

勇猛なる魔王の陣頭指揮という事で、兵士達の士気は高い。


更に戦場という場で、強力な魔族が高ぶる殺意を敵にぶつけるのだから無双状態だ。だが、それでは軍団に統一感が無く、武将個々の力量に頼る所が多かった。

離れた場所で戦う将軍達に連絡するにも伝令や狼煙が要る。

それではタイムラグが問題になって、戦場を広範囲に広げられない問題もあった。


「王様、これを取り入れれば、新兵の訓練も効率良く進みましょうぞ」


軍団という数の暴力を統制する事で、軍事行動が効率的になる事を重臣達も見抜いていた。例えば、軍を分けて敵を挟撃する場合でも、楽器の音なら周囲に響き易い。集団行動の統率は、用兵にとって大きな問題でもある。統率の無い乱戦では兵力を集中させ難い。数の暴力と言ってもそれじゃあ駄目だ。



皆が感心する中、この場で反感を持つ者がいた。

重臣達とともに同席していた第二王子バウソナは面白くない。

無能と軽蔑していた兄王子が、父王に認められつつあるのだ。


剣技でも、闘技でも、魔術でも、父王の信頼でも、自分に敵わない隠居王子のくせに。俺の方が上だと少しでも思い知らせてやりたい。

そんな思いでロンオロス王に提言するのだった。


「父上、私は兄上と模擬戦をしてみたいと思いますが、如何かと?」


「模擬戦とな? ふむ。それも面白かろう」


バウソナの提案はロンオロス王に受け入れられた。


「して、ニホバルよバウソナとの模擬戦を受けてみるか?」



ニホバルは考えた。

前世の知識を総動員して対応すれば、勝てない事も無さそうかな?

それには少し策略と戦略が必要になる。それらを用意する時間を稼げれば。


「父上、良いでしょう。その提案受けましょう。但し少々用意したいと考えますので、後日改めてという事で」


バウソナは内心ほくそ笑んだ。

やはり兄上は尻込みをしている。

何だかんだ言い逃れる算段を早速始めたようだな。

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