第12話 模擬戦①
城の個室の中でニホバルは考えを廻らせていた。
模擬戦という戦争を制するには、戦争のバイブルと言われた「孫子の兵法」が不可欠だろうな。
真面目に勉強した事が無いけど、少しくらいなら知っている。
先ずは『敵を知り、己を知らば、百戦危うからず』というのがある。
敵、この場合バウソナだな。
バウソナが何をするか知る方が有利に立てる。
まともに聞いたって教える訳が無いから、諜報活動が必要になる。
幸いにもツェベリは戦闘侍女隊の隊長だから、極秘にバウソナ側の侍女から様子を聞き出す事は可能だろう。
ツェベリにこの考えを伝え、行動を開始する。
父王の軍学を学んだバウソナなら、恐らく初戦は『力押し戦法』だろうな。
陣形で言えば、中央突破に特化した魚鱗の陣形になるに違いない。
身体強化魔法も使うだろうし、攻撃魔法も併用するだろう。
ならば、こちらはファランクス+鶴翼の陣形で迎え討つか。
ニホバルは自分に貸し与えられた500名の軍団と会議を始める。
「皆、聞いてくれ、俺はバウソナと用兵で模擬戦をする事になった。
それについて、こちらの対応を説明したいと思う」
先ず四列縦隊を40名ほどで組む。
列の外側と前の兵は槍と盾を持ち、槍を横に構える。
槍は従来の物より、長い槍を用いる事にする。
内側の兵は盾のみの装備で盾で頭上を守りつつ、
外の兵を防御魔法で支援する。たまに攻撃魔法を使っても良い。
これをファランクス陣形と言う。
次は周りの陣形だ。
ファランクス陣形を中心に、前方にV字型に隊列を展開する。
敵軍がファランクスに突撃をして来たら、左右の隊列が挟撃にかかる。
これを鶴翼の陣形と言う。
今回はこの方法でバウソナ軍を迎え撃とうと考えていると説明した。
「ニホバル様。実に面白そうな方法で御座います。
御自らご考察されたのですか?」
部隊長のビガラスが感心し質問をして来た。
ビガラスにとっても、こういう戦い方をした事が無い。
した事が無くても、この作戦に一理ある事は理解出来たようだ。
◇
模擬戦が開始された。
練兵場を臨む小高い丘の上で、ロンオロス王と重臣達が観戦する。
ニホバル軍陣営とバウソナ軍陣営には、
それぞれ500名の軍団が割り当てられている。
両軍は500m離れた所から進軍し、総力戦の形を取る。
見ると、バウソナ軍陣営の後ろには太鼓と銅鑼が見える。
前回の用兵で参考になって、素直に取り入れたのだろう。
だが、こちらはバウソナの斜め上を行ってやる。
ニホバル軍陣営は作戦会議で説明したように、
ファランクス陣形態と鶴翼の陣形を展開した。
バウソナ軍陣営から大爆笑が起こる。
何だ?あれは。
亀のように固まった小部隊が相手をするってか?
そんなもの人海戦術で押し潰してくれるわ!
バウソナ軍陣営の士気は一気に高まった。
「模擬戦、はじめい!」ロンオロス王の号令が掛かった。
プオープオープオーと角笛が鳴り響き、バウソナ軍は太鼓の音で進軍を開始した。対してニホバル軍陣営は動かない。
やがて両軍は接敵し、戦闘が始まった。
案の定、狙い通りファランクスに攻撃は集中し出す。
懸命に攻撃をしていても、長い槍を横に構えた陣形に攻撃は届かないでいる。
攻撃魔法の撃ち合いになっても、防御力重視のファランクスは崩し難かった。
直後、ニホバルの号令が飛び、間髪を入れずに、両側からバウソナ軍を挟撃に入る。
バウソナ軍はニホバル軍に囲まれてしまい、反撃がおぼつかなかった。
固まった軍勢の内側にいる兵士は攻撃の方法が無い。
実質戦えるのは外側の兵士だけになる。
この時点で同数同士の戦いになっていない。
バウソナ軍の外側から徐々に兵を削られ、軍団は次第に縮小して行く。
「莫迦な! 莫迦な、何だ、これは一体、
なぜ私の軍が敗れるのだ、有り得ぬ、認められぬ!」
バウソナは焦燥し、大声で自軍を叱責し始めた。
模擬戦を観戦するロンオロス王と重臣達は言葉が出ない。
やがてバウソナ軍は壊滅する。
◇
「むうう……。ニホバルにこれほどの用兵の才が在ったとは。
余は見誤ったのか?」
「父上、父上、これは何かおかしい。私が兄上に負けるはずは無いのです。
きっと兄上は卑怯な事をしたに違いない」
食下がるバウソナ
「そうだ、もう一度私にチャンスをお与え下さい。
次はきっと勝って見せます。お願いします父上」
「バウソナよ、お前は現実にニホバルに負けたのだぞ?
そうまで言うなら、もう一度模擬戦をやってみるか?」
「お願いします父上、次こそ勝ってご覧に入れます」
ロンオロス王はバウソナの願いを聞き入れ、ニホバルは模擬戦第二回を言い渡された。
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