第7話 職人ドワーフたち

ドワーフの都セルズグナは正直、かなり遠い場所にあった。

鉱石の取れる鉱山に展開する街だから、山間部に街が造られるという設定はベターだな。ドワーフは鉱山を掘り、鉱石を加工するのが得意な種族だ。

ずんぐり体型で背の低い者が多く、力持ちだが手先が器用な事で知られる種族。


そして工芸品の匠が多い種族でもある。

それでも、前世の記憶に頼った注文をするのだから、完成は時間が掛かるだろう。


取り合えず何が有れば良いだろうと考え、ピックアップしてみた、


弦楽器としてバイオリン、チェロ、コントラバス、ハープ

管楽器としてトランペット、トロンボーン、ピッコロ、フルート、軍隊ラッパ

打楽器として和太鼓、ドラムセット、シンバル、銅鑼


といった所だろうか。


ピアノはさすがに無理だろうな。

これだけ特注するとなれば、かなりの金額になると思う。

しかし、そこは王族特権で資金は潤沢に用意出来している。




☆回想




城内で父魔王ロンオロスは執務仕事に追われていた。

魔王と謂えども、一国の決済権を持つ王だからそれなりにも様々な仕事を抱え込む。人事や各部署からの上申書の採決、方針会議や貴族達とのコミュニケーション等々。何から何まで臣下任せにする訳には行かないのが現状だ。


忙しい父王にアポイントメントを取り、面会の日が決められる。

様々な手筈を執事に頼み、ようやく面会日が決められた。


そして当日。


「父上、楽団を作りたいと考えているのですが」


「お前の趣味で楽団を創るのか?」


訝しがる父魔王ロンオロス。


「ただの趣味ではないですよ? 将来国のためになると思いますし」


「ほう、どのように役に立つと?」


「例えば軍楽隊にするとか」


「血生臭い軍隊に何故音楽が必要なのだ?」


父王に問われて答えに窮した。


「……それは、軍歌や行進曲があると、戦意高揚に繋がるんです」


「音楽は精神的なものに影響を与えると言うのだな?」


「それについては製作資金をですね…」


「うむ、許可を出すから出納係の大臣に申請しなさい」


解ったような、解らないような父王だったけど、押しに押して許可と費用をもぎ取った。







色々と事を進めて来たけど、一つ大きな問題がある。

それは俺は音楽に詳しくないという事。


前世で色々聞いてきた記憶はあるけど、情けない事に楽譜なんか書いた事は無いし、自分で楽器を奏でたのは、学校の授業でリコーダーとハモニカ以外使った事が無い。


劇団では、ミュージカルというジャンルもあるけど、大抵はCDかけるだけなんだよね。だから、この先には凄い苦労をする事になるだろうと想像が出来る。

どこかに音楽に詳しいのがいれば、すぐにでも勧誘するんだけどな。



楽器を揃えてザウィハーまで帰るまで、ザウィハーズの活動は休止状態である。

彼等には給金を出しているけど、活動開始までは従来のように各々が酒場で弾き語りをする事を許可している。




「さて、どうやって職人を探すか」


「ニホバル様、やはり職人ギルドへの依頼が一番でありましょう」


ツェベリの提案で職人ギルドを探す事にした。

街の門の守衛から、職人ギルドの場所を聞き出し向かう。

やがて案内通り、職人ギルドは街の中ほどで見つける事が出来た。


「案内に聞いた看板はあれのようですね」


「ここが職人ギルドかぁ」


ギルドの建物に入ると、16人もぞろぞろ連れているから、かなり目立つ。

まあ、王族の一行だから人数が多いのはしょうがないか。

ツェベリがギルドの係員に相談をして、申し込みを張り出してもらう事になった。


後は応募者が来るまで、俺たち一行は宿屋で待機する事にした。

宿屋は馬車を置ければ、それほど高級な宿でなくて良い。


街の入り口近くに見つけた『暁の山亭』に五部屋借りきり長期滞在する事になる。一部屋が小さいから四人で一部屋割り当てになる。

内一部屋はニホバルとツェベリ、二人の女性の護衛の部屋だ。


護衛の騎士たちには、道中の疲労や緊張を癒してもらうために、

帰途に就くまでは自由行動をしてもらう事にした。

出張先での長期休暇という事で皆嬉しそうだった。

する事も無く全員で宿に篭っていてもしょうがないからね。


街中での防衛や雑事などは、ツェベリの部下がいれば十分だろうと思っている。

ひと心地ついたところで、俺とツェベリはしばらく街を散策する事にした。


さすがにドワーフ職人の街だ。

生活用品から武器、防具、ガラス製品から木工製品や工芸品などの作りが良い。

どれもこれも品質のレベルが高いと感心した。

こういうレベルなら、依頼をこなせるかもしれない。



その晩、宿で夕食を摂っていると仕事募集に応じた者が来たと知らせが届いた。

応募してきたのは、ムリーント工房の親方。

ドワーフのムリーント親方を筆頭に、ベテラン職人が数十名働く職人集団だという。早速職人ギルドの会議室で話し合いをするために向う。


「あー、おめ様が今までに無い楽器を作りたいってぇお人け?」


小柄だがずんぐりした体は筋肉質で頑固そうな顔の親父がいた。

彼が応募に応じてくれた製作工房のムリーント親方だ。


「むう、ニホバル王子様に何と言う口を…」


いきり立つツェベリ。


まあ、まあ、まあと落ち着かせる。

工房の親方と喧嘩して物別れになっては堪らない。


「親方には、こういう物の製作を頼みたいんだ」


ムリーント親方には絵を描きながら、どの楽器がどういう物で、

どれくらい製作期間が掛るか交渉を始めた。

物作りのベテランであるムリーント親方の目に強い決意の光が輝いている。

どうやら要望は統べて理解した上で、作業工程が彼の頭の中で組み上がって行くのだろう。


「むぅ……。実に奇妙な楽器ですだな……。

 うーん、これぁオラん工房以外じゃぁ無理だろうなぁ」


話し合いの結果、製作期間三ヶ月、金貨700枚で受けてもらえる事になった。

工房の職人が総出の上、助っ人職人も呼ぶらしい。

更なる細かい指示は俺が直に工房へ出向いて、職人達に相談しながら進める必要があるという事だ。


「ニホバル様ー、ここはどうやって作れば良いんだー?」


職人達に呼ばれる度に駆けつけ、一緒に考えたり指示を出したり大忙しだった。

何せ楽器の詳細を知っているのは俺だけなのだから。

設計図の存在しない世界で、仕様や大きさや動作を伝えるのに一々口で伝えなければならない。楽器を作る部署をあちこち飛び回る日々が続いた。


金属管を曲げ、ロウ付けをし、穴を開け、木材を曲げ、繰り抜き、音程を調律する。それは一つや二つではない。

紆余曲折の末、やっとイメージに近い物が出来上がった。



忙しい三ヶ月間が過ぎ、各種楽器の引渡しは無事終った。

仕事が一段落した後は、関係者全員で恒例の打ち上げ会が始まる。

騎士達と侍女達にも存分酒を呑んで完成の喜びを分かち合う事に。


それにしてもドワーフってよく呑むね。その量が凄まじい。

中には樽で呑む者もいたりする。酒に強い騎士でさえ太刀打出来ないでいる。

未成年の俺は残念ながら、皆の体力に付いて行けず、早々に宿で就寝する事になった。



翌朝、荷物を運ぶ馬車をもう一つ調達し、積み込んだ楽器を王都へ運ぶため出立した。結構散財したけど、消費財じゃないから、大臣達も認めてくれるだろうか。そんな不安を掲げ、一路王都へ馬車は進むのであった。

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