第6話 ドワーフの都へ

ザウィハーズの人気は上々だ。

奏者たちも練習の成果で、段々腕前を上げてきている。

あの曲は俺も大好きな曲だから大満足している。

しかし楽器がリュートしかない、というのは寂しいし物足りない。


楽器製作するにはドワーフに頼むのが良いとよく言われている。

しかし王都内にもドワーフはいるけど、刀鍛冶ばかりで頼むに至らない。

楽器製作ともなると、ドワーフの都を訪ねた方が良いという話を聞いた。

そういう訳で、ドワーフの工房を訪ねるために馬車で旅をしている。


俺の乗る馬車は貴族用のキャビン作りで、雨風を凌げるようになっている。

衛士でもある御者は二名、キャビンの外の御者席に控え、

その馬車の周りを選抜きの10名の馬に騎乗した騎士達で護衛されている。


この馬車は王族用の馬車より、グレードは一段劣るようだ。

隠居王族の待遇じゃあ、こんなものかもしれない。


車内には、ツェベリの部下2名の侍女が同乗し、

彼女の指示の元、道中の食事を作る役割と買出しを担当する。

道中に街や村があれば良いが、無ければ野営をする事になる。





俺は一端のめり込むと際限が無くなる癖があるようだ。

ましてや王家の資金力や影響力がバックにあり、

放蕩を認められ自由なら尚更という所だろうか。

反逆にさえならなければ、ウハウハでやりたい放題が出来るってもんだ。


「ニホバル様のお供で旅をするのは始めてでありますね」


ツェベリは元々戦闘侍女で俺の側付き護衛が本来の任務だった。

それは今でも変わらないのだろうが、この頃は何となくだが、

俺のマネージャーのようにも見えて来る。

戦える護衛マネージャーだ。




考えても見れば、王都の城下街から外の世界に出るのは初めての事になる。

街の外の景色という物自体、見るのも目新しい経験だ。

そういう意味でワクワクしながら車窓から外の景色に思わず夢中になる。


街の外はしばらく田園風景が続いていた。

人家もまばらでは有るが点在している。

あそこに住む者は獣害被害を受けないんだろうか。

多分だけど、街の外は冒険者や城の騎士達が、良い具合に討伐しているのかも。



やがて森の中を突っ切る街道を進んで行く。

左右の見通しが悪いけど、盗賊なんかは大丈夫だろうか。


幸いにも魔族領内で王族を襲うような賊はいないようだ。

何かあって軍隊が出るとなれば、やっぱり襲わないだろうな。

いくら治安が良くないと言っても、内戦地域じゃないからね。



やがて道行く人の様子が魔族オンリーから、他種族の姿が多く見られるようになり始めた。魔族領の端に来ているからだろう。

想像したように魔族や人族以外に、獣人など亜人の姿が時々見え始まる。

徒歩で道行く人々、荷馬車で何かを運んでいる人達様々だ。


しかし馬車という物は想像したより乗り心地悪い物だね。

車輪が石に当たる度にゴンゴン車内に響いて来るんだよ。

恐らく、バネクッションサスペンションすら付いていないじゃないかと思える。長時間乗っていると、尻どころか体中痛くなりそうだ。

やっぱり文明社会の車って、例え軽自動車でも凄い物だったんだと思えるよ。






今の所馬車は無事旅を続けている。


しかし領境を越えてから、ぼちぼち盗賊の姿が見られるようになって来た。

馬車の周りには鎧を着込み、武装した騎士たちのガードが固く、馬車までは辿り着けないでいる。もし俺が平民で歩いて旅をしなくちゃならんなら、と思うとぞっとする。王族特権に感謝だね。


盗賊と言っても、元々は食い詰めた農民ばかりなのだろう。

姿や武器はみすぼらしい者たちばかりだ。

裕福そうな馬車が通るから、とりあえず襲ってみたと言わんばかりだ。

しかしツェベリの指揮の下、騎乗の騎士たちにあっさり迎え撃ちにされている。


元食い詰め農民の盗賊団だから、魔術師を雇う事も出来ないのだろう。

魔法による攻撃を心配する必要も無かったようだ。

最もニホバル王子以外は全員戦士でもあるから、そんな集団を襲おうなんて無謀以外の何物でもないけど。






やがて旅は街に辿り着けず、野営する事になった。

持って来た薪と食料、鍋を馬車から降ろし、二人の侍女が料理を始めた。

料理のレパートリーの少ない世界だからか、毎食同じ品目の料理が出る。


野菜や肉をぶち込んで煮込んだシチューとパン、そして干し肉の食事が続く。

馬車の旅だから、余計に贅沢は言えないだろうけど、皆はよく飽きないものだと感心する。


その風景は、前世で子供の頃のキャンプを思い出すな。

キャンプで作る料理はカレーが定番だったっけ。

この世界にカレーライスが存在しないのが悔やまれる。

あー、思い出したら無性に食べたくなってきた。


夜になると俺と女の衆は馬車の中で寝る事になる。

焚き火を囲み、10人の騎士たちは順番で寝ずの番をするらしい。

外であっても屋根の下で寝られるのは、安心と幸せを感じるね。





数日後には、やっと街が見えて来た。

ドワーフの都はまだまだ先だ。

いわば中継地点の一つの街という事になる。

夕方についたならば、今夜は柔らかなベッドで寝る事が出来たんだけどね。

今回は食料と水、必要物資の買出しと馬の食事程度の休止になるらしい。




ドワーフの都への旅は更に山をいくつか越え、野を越え、いくつかの国を越え一ヶ月ほど続く。

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