星と船

 富豪たちの造った巨大な宇宙船が、夜空へ打ち上がった。

 自分達の重要な関係者と愛するペット、半永久的に保存できる大量の宇宙食。

 そして、乗船チケットを買うことのできた一部の人間を積んで。



 この星では、人間はもう生きられない。


 環境も生態系も、最早完全に崩壊した。

 豪雨と猛暑が繰り返し人間を襲い、降り注ぐ強烈な紫外線に皮膚はじわじわと蝕まれた。


 地球上の大富豪が集結し、この問題について話し合い——この星から逃れて生き延びるために、巨額の資金をつぎ込んで広大な宇宙ステーションとこの船を開発した。



 誰が船に乗るのか。

 誰が諦めるのか。

 どれだけ巨大なステーションでも、地球上の全ての人が移住できる訳などない。

 どんな時も、「金」は問題を分かりやすく解決する。

 乗船チケットを買う金があるか。

 金のない者は、この星に置き去りにされるのだ。



 チケットを買う金を奪い合い、強盗と殺人が頻発した。

 やがて暴動が起きた。

 大勢の人が、宇宙船の乗船口に殺到した。

 タラップに足をかける権利のない者は警備員の分厚い盾に押しのけられ、爆弾や銃で追い払われた。


 金も力もない大勢の人間が倒れた。

 愛する人を守りたいと、ただそれだけを望む人々が、血を流して地面に崩折れた。



 そうして、宇宙船は飛び立った。


 僕とお母さんは、明るい光を放って空へ昇る船をただ見つめた。


 お母さんが、不意に僕を抱きしめた。

 泣いていた。


「ごめんね。

 うちには、お金がない。

 お父さんは、あの暴動の怪我で意識が戻らない。

 私たちは、このふねが沈むのを待つしかない」



 それから、約半年後。

 夜空に、突然眩しい爆発が起きた。


 彼らの移住した宇宙ステーションの中心部が突然不具合を起こし、修繕する間もないまま巨大なステーション全体が吹っ飛んだらしい。



 夜空に赤く燃え続ける炎。

 やがて沈むこの星から、僕はその炎を毎晩見上げる。


 何の感情も湧かないまま。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る