吐息

 ねえ。

 君が今、どんなに美しいか、知らないだろう?



 そうやって肌を染め、強く眉を歪めて。

 恍惚と瞳を潤ませ。



 唇から漏れる——

 甘く苦しげなそれは、僕の脳をめちゃくちゃに破壊する。




 そんなにも美しい君を。

 そんなにも、美しい吐息を。


 君が、他の誰かにも見せているって。

 僕は知ってるよ。




 それは、そんなに安いものじゃない。


 愛される悦びに震えるその姿も、君の全てが溶けたその吐息も——何よりも尊くて、大切なもの。


 それは、君の一番大切な誰かにだけ——密やかに、大切に贈るもの。



 そうだろう?



 なぜ君は、それに気づかないの?




 他の誰にも、見せないでほしい。

 聞かせないでほしい。


 それを許すのは、僕だけにしてほしい。



 ——きっとそれを言えば、捨てられるのは僕の方。




 だから。

 僕はまた、美しい微笑みを浮かべてドアを出ていく君を、ただ黙って見つめるだけ。





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