秘密の花園
ようこそ、秘密の花園へ。
え、花など一輪も咲いていないって?
いえいえ。私についてきてください。——ほらね。この小道の奥にこんな館があるって、知らなかったでしょう?
さあ、中へどうぞ。
粗末なテーブルですが。オーダーをどうぞ。
と言っても、コーヒーもワインも出てこないんですけどね。
テーブルの上。目の前のナプキンを開いて。
文字が並んでるの、わかりますか?
ほら——その扉に、手をかけて。
最初の一行を読んだら、あなたの足はもう扉の中の世界に一歩踏み込んでる。
お好みの味は、なんでしょう? 甘さ、酸っぱさ、それとも苦さ?
手を伸ばせば、あなたの欲しい味がなんでも手に入ります。——ご希望があれば、お好みのナプキンをいくらでもお持ちしましょう。
ここには、あなたの欲しいものしかありません。
あなたの味わいたい幸せ、悲しみ、痛み。恋と愛。華やかなバトル。抱腹絶倒の喜劇、背筋の凍る恐怖。
そう。
この館は、あなたが好きな世界で好きなだけ自由に生きられる、奇跡のような場所。
様々な感情を、どうぞご自由に貪ってください。
え? 遊ぶだけじゃなくて、自分でも世界を創ってみたいと?
ええ、お安い御用です。この真っ白なナプキンと、目の前の一輪挿しの花の陰に挿したそのペンが一本あれば。
あなたの見たい世界を、あなた自身が創る。もしかしたら、それは誰かの世界の中で遊ぶだけよりもはるかに楽しいかもしれません。
一度嵌ったら、簡単には抜け出せませんよ? ふふ。
さあ。今宵から、終わることのないパーティの始まりです。
浮世の憂鬱など一切存在しないこの館で、どうぞ好きなだけおくつろぎくださいませ。
——え? 今宵は私と二人きりで?
それは困りましたね……
なんていうのは、冗談です。
館の番は、そこにいる野良猫にでも任せておけばいい。
光栄でございます。
さあ、お手をどうぞ。
あなたと私だけの秘密のお部屋をご用意してございます。
この私、今宵はあなたの思いのまま。
どうぞお好きなようにお楽しみくださいませ。
ここは、あなたの全ての願いが叶う、秘密の花園。
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