カマキリの悲恋

「ねえ、あなた。あなたと結婚できて、私は本当に幸せよ」

「それは僕の台詞だ。僕を選んでくれて、本当にありがとう」


「——あなたと結ばれた後、私には産卵という大仕事が待ってる。

 私の友達はみんな、愛するダーリンのことはもちろん頭から足の先まで食べてしまいたいって言うけれど……

 私は、違うの。

 私には、あなたを食べることなんてとてもできない……

 あなたには、まだまだ長く生きていて欲しいのよ。

 だから……交尾が済んだら、どうか私の腕から一目散に逃げて。決して振り向かないで」


「——おい、何を言うんだ。

 僕は、君の産んでくれる赤ちゃんに、僕の身体を全て与えるつもりでいるんだ。

 君たちメスの身体は、交尾の際に食べたオスの養分を自分自身で吸収するのではなく、全て子供達の栄養に回す仕組みなんだっていうことを、僕は知ってる。そして、オスを食べたメスは、食べなかった場合よりもずっと多くの卵を産むことができる、ということも。——ああ、神はなんて深い慈愛に満ちたメカニズムを僕たちに与えたもうたのだろう。

 それを知りながら、自分が生き長らえるためにとっとと逃げ出すようなことはしたくないんだよ、僕は」


「……でも……(涙ぐむ)」

「それにだ。

 もし僕が君との交尾後も生き長らえれば、僕はいずれ君以外の女の子達とも結ばれ、子を儲けることになる。——それでもいいのか?」


「——嫌……

 それだけは嫌!!!」

「ならば、頼む。

 どうか、交尾の間に僕を頭から食べて。

 君の産んでくれる新しい命に、自分の命を全て捧げる。それが僕にとって何よりの幸せだ」



「……わかったわ、あなた……(溢れる涙を堪えて微笑む)」





※こういうカマキリカップルの悲恋が、もしかしたら草むらのあちこちで生まれているかもしれません……(´;ω;`)



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