初めて愛したひと

昔、犬を飼ってた。

小さい小さいコロコロの子犬を、姉が家に連れてきた。

拾ったのは姉だったけど、毎日の世話をしてたのは結局私だった。


すらりとスレンダーな身体に、涼しい眼差し。

艶やかに黒くて、胸元と手足の先が白い、正真正銘のイケメン。

雑種だけどね。血統なんてこれっぽっちも関係ない。



時々散歩が面倒だったり、そんなこともあったけど。

ご飯をあげる度、私は食べ終わるまで彼の横にくっついて、その様子を見てた。

彼は時々私の鼻をペロリと舐めながら、幸せそうにはぐはぐお皿に顔を入れていた。

滑らかで温かい彼の背の手触りは、どんな時も私の心を柔らかくしてくれた。

そうして撫でる私の指に、ゴロンとお腹を見せて「もっと」とせがむ彼。

イケメンなのに甘えん坊。


そんなふうに、彼とふたりきりで過ごす時間が、幸せだった。



あまり長生きはしなかった。

私が小6のときに、彼は静かに空へ昇っていった。


そうして、初めて気づいた。

どれだけ彼を愛していたか。



深く愛するという気持ちを初めて私に教えてくれたのは、彼だ。





彼がいなくなって、毎日泣いていたある夜、夢を見た。

彼が、日差しの輝く緑の野原を、思い切り走っている夢。



こっちで幸せに過ごしてるよ。

彼がそう教えてくれた気がして——

次の日から、私は泣くのをやめた。





その彼はね。

今、私の胸の中で、「恋人」の場所にいる。

暖かい微笑みで私を見つめながら、すらりと横に立っている。



この感覚、すごく不思議。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る