家猫、野良猫

「よお、デブ」

「ガリガリ野郎が」

「しかし毎日窓辺のクッションの上で飽きずにゴロゴロしてんなー。そんなんでいざいい女見つけたときに使いもんになんのかよ?」


「そんな機能はとっくに捨てた」

「へ?」

「……というか取られた」


「……

 じゃああんた、恋とかしねえの?」

「こい?ああ、鯉の煮付けならご主人からもらったことがある。まあ肉の方が美味いな」



「……

 つまり、いい女見てもなんも感じねえのか。

 気が狂うほどその女が恋しくて、命がけでも手に入れたいとか……そういうの、一生ないのか?」

「申し訳ないが、意味がわからない。お前の言ってる『こい』とは、一体何だ?」



「……あんたさ、毎日そこにいて何が楽しいの」



「そりゃ飯だな。

 お前が一生かけてもあり付けない美味なご馳走を、毎日もらえる」


「……」


「あ、それから。

 お前ら野良猫の4倍くらいは長生きするぞ。何せ住環境がいいからな」



「……へえ。

 そんなに長い時間、ただ美味い飯食って寝るだけ……ってことか」


「しかも普段からの体調ケアも万全だしな。ここはまさに天国だ」




「——かわいそうだな、あんた」



「どっちがだ」




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