戦友

俺は今日、お前を置き去りにしてきた。

敵の銃弾の降り注ぐ、深い森の中へ。



全身に深い傷を負ったお前は、その身体を背負おうとする俺に、力を振り絞って懇願した。

自分をここへ置いて行け、と。

でなければ、お前を決して許さない、と。




俺は、お前を置いてきた。

それしか、道がなかった。





誓う。


俺は、必ず生き残る。

たとえ何があっても、最後まで生き続ける。




俺自身のためではない。

お前が俺に手紙を託した、お前の恋人のためでもない。



お前を、忘れないために。

お前を、これからも決して忘れないために、俺は生きる。




この胸の中に、お前を連れて帰る。

この胸の中で、お前を生かし続ける。

俺の命が尽きる、その瞬間まで。





お前は、もうこの空を駆け上がっていったのだろうか。

この地獄から、解放されて。



なあ。

この世は、地獄だ。





お前への言葉を——

俺はもう、こうして星や雲や風を見上げながら、話しかける以外にないのだけれど。



それしか、お前と話す方法は、もうないのだけれど。




俺は、生きる。

お前を消さないために。

何があっても、この命を最後まで使い切ってやる。

一秒でも長く、生きてやる。


明るく笑うお前の面影を、ここに生かし続けるために。






だから。


今は、どうか静かに、眠っていてほしい。



——またどこかで、笑顔を交わし合える時まで。







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