第38話 勇者ちゃんと勇者ちゃん、ときめきがとまらない。①


「それで淡島、お前がどうしてここに?」


「え、あ、あの。ヤエが時空転移の波動を感知したから」


 ふむ。

 いまだ白目を向いて地面に寝っ転がっているこの素っ裸の幼女、そんなこともできるのか。


 ちらりと横目に、背中の張り付いているディアを見る。

 ヤエにできることなら、ディアにもできるのではないかと思ったからだ。

 案外賢いディアのことだから俺の無言に察してくれるんじゃないかと思ったが、どうやら今はアムに夢中なようでそもそも俺らの会話を全く聞いていなかったようだ。

 ビルの屋上から地上を眺めて、感嘆の声を上げているアムに視線が釘付けである。


「ディア、おいディア」


「……わっ、な、なに?」


 お前、アムの事好きすぎない?

 まぁいいか。


「お前は転移の波動とかいうの、感知できないのか?」


 俺の知覚や邪眼はさっぱり反応しちゃくれないようで、どうやら霊的・魔術的・オカルト的な力では無さそうだ。


「……で、できない。ディア、は。力と癒しに特化した神剣、だから。多分、ヤエ……あの子は波動とかそういうのを察知する能力に優れている」


 そうか。なるほど。


 神剣にも色々と種類があるんだな?

 そうなると、この世界にも『いるかも知れない』勇者達も状況によっては探し当てないと行けなくなる可能性が出てきたな。

 違いがあるという事は、必要とされる場面がそれぞれ分かれているかもしれない。


「淡島にはその波動、とかいうの。感じ取れるのか?」


「わ、私もヤエを持つと分かるよ? 神剣と勇者が本来の力を発揮できるのは、お互いが揃った時だから」


「ディア」


「……うん。あってる。ディアの力を全力で使うためには、アムが神剣を持ってないと無理。逆も、そう。アムが本来の力を使うには、ディアが必要」


 よしよし、なんとなくだがこっちとあっちの世界での勇者の共通点が見えて来たぞ。


「アム!」


「はーい! 今行きますよー!」


 目をキラキラさせて地上を見ていたアムが、俺の声に答えて駆け寄ってくる。


 俺とディア、淡島とヤエ、そしてアム。


 五人が自然と円になって、これからの事態について話し合う。


「んじゃあ淡島、『敵』が次元転移してくるおおよその時間と場所と、転移してくる数って分かるか?」


「う、うん。波動の強さからしたらあと十分ぐらい、かな? 数はおそらく二百ぐらい。で、でもこれって私とヤエの経験則でしかないから、ちゃんと計算したってわけじゃないよ?」


「いいよ。それで充分だ」


「猟介、ヤエさんって誰です?」


 ああ、そういやアムにはヤエに姿は見えてないんだったな。

 説明するとディアの存在もバレるかもしれないから、ここは誤魔化しておこう。


「こっちの話だ。それで、場所は?」


「えっと、このまままっすぐ海に出たところ。40キロぐらい先……だと思う。ヤエならもっと細かく分かると思うけど」

 

 地面に転がるヤエを心配そうに見る淡島。いや、お前がシメたんだぞアレ。

 ていうかまだノビてんのかアイツ。


「海の上、か。転移ってのは、いつも同じ場所に出てくるのか?」


「う、ううん? 今回はたまたま日本で横浜だったけど、この間はアメリカ西海岸だったし、その前はインドの方だったし。いつもバラバラだよ?」


 そこんとこは暗黒次元神の軍勢と同じ条件か。

 ん?


「アメリカ? インド?」


「あ、今日は近かったから徒歩で来ちゃったけど、いつもはヤエの法術で瞬間移動っていうか、テレポートっていうか」


「ああ、同じ意味だぞそれ」

 

「へぇ〜、こっちの『勇者』はそんな事もできるんですねぇ。羨ましいなぁ」


 この様子だと、アムにはできないみたいだな。瞬間移動。


「それって、移動できるのはお前だけか?」


「え、やってみた事ないからわかんないけど、多分……できる、かな?」


「ちょっとヤエを起こしてくれ。試してみよう。それと淡島、お前空は飛べるか?」


 戦う場所が海だってんなら、空を飛ぶのは絶対条件。


 アムは空を飛ぶ魔法を持ってるし、実は俺にもある。

 拾弐式ある雷火の呪いの中の一式なんだが、ちょっと使いづらい術なんだよな。

 それに俺の呪重解放コンボは重ねれば重ねるほど持続時間と消費する体力・呪力の限界が早まっちまう代物だ。

 できれば省エネで行きたい。淡島の使える技が、俺も飛ばせる奴ならラッキーなんだが。


「そ、空なんか飛べないよ! せいぜいここに来た時みたいに高く飛び跳ねたり、脚に法術をかけて海の上を歩けたりできるようにするのが精一杯!」


「そうか……うーん」


 そうそう上手くは行かんか。

 ていうか、それも大概常識外れな技だって自覚、コイツにはないのだろうか。


 ま、良いだろう。

 こっちには『勇者』が二人も居るんだ。

 なんだかんだで淡島も戦い慣れしてるみたいだし、俺がしくじってもどうにかなるだろきっと。


「よし、んじゃあ。先にお前らに言っておく事がある」


「なんですか?」


「な、なにかな?」


 二人の勇者が俺の顔をじっと見る。

 こうして見ると二人とも、本当にただの女の子だ。

 肩出しキャミソールにロングスカートの淡島と、ガッチガチの鎧姿のアム──────まぁ、どんな姿だろうが女の子は女の子。

 本来は戦いなんて野蛮な物とは縁遠いはずの、大人しい(と思われる)奴ら。

 ディアはアムが戦いを続けるのを好ましく思ってないみたいだし、俺も一般人である淡島が戦っているのなんか納得がいかん。


 なので、さっきディアと無言で交わした約束を守ろうと思う。



「今日は俺だけで戦ってみるから、お前ら一回休みな?」


 たまにはバリバリ大暴れすんのも、悪くないだろうさ。

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勇者ちゃん、異世界より来たる!〜とんでも勇者の世話をすることになったんだが、俺はもうくじけそう〜 不確定ワオン @fwaon

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