第36話 勇者ちゃん、もう一人の勇者ちゃんと会う。⑨
「──────はい。流華……………いえ、
『今確認した。情報室でも先日と同じ時空転移と似た波長を観測してる。今までは気にすることのなかった細かい変化だけど、特徴は全く同じ』
緊急回線である思念通話で、南条さんとコンタクトを取っている。
背中にディアを乗せたまま、ビルとビル、建物と建物の上を跳びながら俺は目的地である横浜港へと向かっていた。
『次元獣三匹の協力もあって、
「うす。んじゃ切ります」
『お願い。猟介くん』
通話を終える。
緊急回線は昔ながらの思念通話。
特殊な才能と然るべき訓練を積む必要があるが、よほどの事じゃない限り妨害されないし、何より手ぶらでもいつでも回線を開けるのがメリット。
当然デメリットはある。
精神を表在化させて外部に曝け出す必要がある為、万が一自分を細くしている敵性
その為何重にも思念防壁を構築する必要があるし、精神に乱れがあれば隙が生じてつけ込まれてしまう為に常に冷静であることを求められるのだ。
「……アム、やっぱり、来ちゃう?」
背中のディアが、俺の耳元でか細く囁く。
結構なスピードで跳び回っている為、風切り音がうるさくて上手く聞き取れない。
返事の代わりに、俺の肩に乗せた頭を軽く撫でる。
心配すんな、という意味合いを込めて。
前回はアムが張り切りすぎて止められなかったが、本来はこっちの世界の事情だ。
いつまでも他の世界の勇者に助けてもらう訳にもいかない。
だから、もし戦闘が起こるのであれば、俺の出番だ。
まだその実力をこの目で見た訳じゃないが、おそらく淡島もアムと同程度の戦闘能力を保有していると思われる。
だとしても、アイツはただの女子高生。
二年間戦い続けていたというのが本当であったとしても、本来は戦いの責務など追う必要のない人間だ。
その点俺は、生まれながらに人である身を放棄した雷火の戦闘人形。
この国の国難となれば、その身を犠牲にしてでも戦う義務がある。
なにせこの身に宿る犠牲となった怨者は万を軽く越す。
寝ていても起きていても、常に囁く怨嗟の声が、俺が戦いから遠ざかることを許してくれない。
休職していた三年間も、雷火家がその悲願を達成する為に消費してきた1200年分の亡者が、俺に戦えと囁いていた。
俺でなければ齢5つに満たぬ内に死を選んでいたであろうその声に、俺はどうしたって逆らえないのだ。
今この身に発動している呪い、雷火弐式【
全身万遍なく這い回る蛇に似た模様の呪紋が、亡者どもから恨みと怒りを吸い上げて俺に人知を超える敏捷性を授けている。
壱式から拾弐式まである呪い式は全てそうだ。
それぞれ違う理由で雷火家に利用され、違う恨みを抱き、死してなお消費されている魂。
それに報いる術を、雷火の人間は未だ見出だせていない。
東京の夜を、ディアを背負って跳び回る。
特務七九九号、雷火猟介。
別名、呪系戦闘人形【雷火七十九代螺旋號 猟介】。
俺は、闇の中でしか輝けない。
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