第27話 不審者ちゃん、涙目で訴える。⑦

「……リョウスケ。来た」


「は?」


 ディアを背負ったまま、本校舎実習室横のトイレを出た時だった。

 その姿からは想像し辛いが、そこそこにお喋りなディアがヤケに静かだったので、ちょっと不思議に思っていたんだ。


「……来るって、思ってた」

 

 急に口を開いて、廊下の奥を指差す。


「ん?」


 差された指の先へと視線を移すと、教室棟へと続く曲がり廊下の壁の前に人影がポツンと立っている。


 それはあまりにも長い『白い』髪。

 あまりにも小さいく『幼い』体。


「……っづぁ!!」


 俺の邪眼が急に反応し始め、そして急に察知した感霊子・感霊圧があまりにも強力だったために脳へと痛みが走る。


 これは。

 つい昨日感じとった、あの圧力に似ている。


「……あると、思ってた。やっぱり、昨日の女の子。そうだったんだ」


 そう言うとディアは俺の首から両腕を解いて、軽やかに廊下に着地する。


 そして右腕を前に突き出し──────。


「……敵意があるなら、戦うよ?」


 謎の発光体をその手のひらから撃ち出した。

 一瞬にして廊下を走るその発光体は、俺の邪眼を持ってして『攻性物体』と解析が出るほどに威力を持った──────攻撃だ。


「お、おまっ!」


「……打ち消された。反撃してこない」


 秒に数えて2秒ほどか。

 ディアの撃った攻性の発光体は、跡形もなく消えている。

 廊下や壁に損傷は見当たらないし、ガラスの一枚も割れていない。


「お前なぁ! そう言うのヤるってんなら俺に全部説明してからにしてくんねぇか!」


 急にぶっぱなされても対処できねぇんだわぁ!


「……そんなに威力のある、魔法じゃ無い。あの剣なら何とも無いって分かってた」


 何でそんな驚いてるの? って顔すんのもやめてくれる?


「剣?」


「……そう、アレは──────」


 もう一度、廊下の奥の人影を指差すディア。


「……こっちの、世界の。神剣」


「へ?」


 思ってもみなかった言葉に、一瞬固まる。


 こっちの世界って、この日本を含んだ地球の事?


 あるのか、神剣って。


 じっと人影を見る。

 ああ、言われてみたら確かにそうだ。

 この両目の邪眼で感じ取ったこの謎の威圧感は、昨日俺がディアを初めて見た時のソレに似ている。

 一晩寝たらあんまり違和感が無くなっていたが、確かにこんな感じの圧迫感だった。


「……何でか知らないけど、さっきから敵意、剥き出し。られる前に、るは、戦場のお約束」


「お、おう」


 お前そんなナリしといて、意外とバイオレンスなんだな。

 なんか詐欺みたいだ。


「……ほら」


 廊下の奥の『白い幼女』が、プルプルと小刻みに震え出した。


 一応、身構えておくか。

 ブレザーの裏地に隠し持っていた、七色鋼ナナイロハガネのナイフを取り出して、逆手に持って腰を落とす。


 敵意、ねぇ。

 俺も一応は戦闘工作員ストライク・オフィサーだから、こう見えてそう言うのには敏感なんだが、こうして対峙していても全く感じ取れない。


 一応ディアのことに関しては全面的に信用してるわけじゃ無いが、嘘をつく理由がまず謎だし、俺を騙して殺すつもりなら寝てる時に今のをぶっ放せばソレで済んだはず。

 まぁ、黙ってやられるつもりは無いが。


「──────ざっ、けん───です」


「ん?」


 何か言ったかあの幼女。

 距離があって何を言ったか聞こえなかったが、俯いてブツブツ呟いている様に見える。





「ざっけんなですぅ! いきなり攻撃してくるお馬鹿がどこにいやがりますかぁあああ!!」





 素っ裸に涙目の不審な幼女は、顔を真っ赤にしてそう叫んだ。

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