第26話 不審者ちゃん、涙目で訴える。⑥
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「はー、楽しいですねぇ学校って!」
時間は過ぎて、今は昼休み。
場所は体育館の裏。
ここならあんまり人目に付かないだろうと思ってたんだが、予想以上に部活の昼練に来る生徒に目撃されまくってて俺ちょっとげんなり。
階段状になった縁石に腰を下ろし、膝の上に広げた局が仕入れた仕出し弁当から、フォークで卵焼きを取り出してアムは満面の笑顔でそう告げた。
「あ、そう」
そっすか。
そりゃよう御座いましたね。
その隣に座る満身創痍な俺は、朝作っておいた弁当をもそもそと食む。
内容はお袋の弁当箱に詰めたのと同じ。
冷凍食品のハンバーグに、卵焼きにベーコン。それと白米だ。
「……はぐはぐ。リョウスケ、次、その黄色いの」
こいつはこいつで注文が多いなぁ。
ディアに指示された通りに卵焼きを箸でつまみ、アムにバレないようそっと手渡す。
つーか、一緒に食うのは大変だから昼前に食ってこいって、何度も弁当を渡したんだが、何故か頑なに俺から離れようとしないこの幼女は何なんだ。
「……おいひ。すごい。リョウスケ、凄い。はぐはぐ」
うん、お前が黙ってろって言うからさ。
だから俺、アムにお前の事隠してんだよ?
ちょっとは自分の立場理解してくれない?
「授業の内容は何言ってるか全然わかんなかったんですけど、ああやってみんな一緒に勉強するのって私とっても新鮮で!」
「成績は気にすんな。どうせ政府とか局が辻褄合わせてでっち上げある裏工作してるんだから」
そもそも入学試験も編入試験も受けてないしな、コイツ。
「あとあと、同じ年頃の同性の方とこんなにお喋りしたのも生まれて初めてです! 故郷の村の子供って十名ぐらいしか居なくて、一番歳が近かったのは四つ年下のアーレ君だけでしたから!」
「て言うか、みんなお前より年上なんだけどな」
見た目は金髪の外国人だからか、クラスメートからの評判は上々だった。
折につけ俺にフォローを任すもんだからか、みんな完全に俺との関係を疑ってたよなアレ。
そもそも、男子からの嫉妬の目がかなり強かったのは何故だ。
お前ら言って結構リア充してるじゃねーか畜生。
「今度遊ぶお約束もしちゃいました! てへ!」
てへ! じゃねぇよ馬鹿。
お前自分が保護されてる自覚あんの?
て言うかいつそんな約束してたんだ。
俺お前とクラスメートの会話、聞き逃さないよう全部
あ、アレか。
トイレか!
女子特有の謎の連れション文化の時か!?
困ったな。まさかアムに盗聴器仕掛けるわけにも行かないし、どうしたものか。
「日付と時間、ちゃんと俺に報告しろよ? ちゃんと影から見守ってやるから」
「はい!」
いい返事返してくるのが逆に心配。
何でだろ。
対処としては、とりあえずそんなとこだろきっと。
この調子だと、この先どんどん俺のスケジュールが埋まっていく予感がしてならない。俺の用事じゃないのに。
「……リョウスケ、次その白い粒々」
はいはい。米な?
あーもう、やる事どんどん増えてくな。
箸に載せた米を、アムに見つからないようタイミングを見計らってディアに渡す。
おっと、ちょっとお花摘み。
箸を箸箱に入れて、腰を持ち上げる。
「ん? どうしたんです?」
「ちょっとな。すぐ戻る」
流石に飯を食ってる相手に『便所に行く』なんて言えるほど俺はデリカシー無い男くんでは無い。
なんだかんだで賢いアムも察したのか、気にせず弁当の続きに舌鼓を打っている。
「……リョウスケ、ん」
ディアが座ったまま両手を差し出した。
いや、ん。じゃ無いが。
俺、便所だってば。
「……ん」
はぁ、分かった分かった。
どうせ朝に同じ様な問答は終わらせてんだ。
どうせ他の奴には見えて無いんだし、諦めるよ。
不自然にならない様、弁当を避ける振りをして身を屈める。
首筋に両手を回して、ディアは体重をかけて俺に纏わりついた。
さて、一番近い便所は体育館の中なんだが。
今は部活生がかなりたくさん居るからあんまり使いたく無い。
ここは本校舎一階の一番端にある、実習室近くの便所に行こうか。
あそこなら昼休み誰も居ないしな。
「……んふー」
何だか楽しげなディアの声を聞きながら、俺は本校舎へと向かって歩き出した。
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