第25話 不審者ちゃん、涙目で訴える。⑤
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翌日、俺は相変わらず背中にくっついて離れないディアを連れて学校へと向かっている。
「なぁ。本当に誰にも見えてないのか?」
「……見えて、ない。リョウスケの家族にも。見えてなかった、でしょう?」
まぁ、確かに。
朝飯作ってる時もそして食べてる時も、ディアは俺の首に両手を回してずっと引っ付いていたし、大胆にも人の皿からトーストを奪ったりもしたが流華もお袋も何も言ってこなかった。
それにしたって、幼女を膝の上に乗っけて食う朝飯とか謎すぎて全然味がしなかった。
悪いことしてるわけじゃないのに冷や汗が止まらなかったぜ。
「……ディアの姿は、強くなった勇者にしか見え、ない。アムも、本当だったら今頃見えてて、も。おかしくないんだけど。あの子は、今、視野が狭いから、ディアの声も、姿も、届いてない」
「俺は?」
「……リョウスケの目、変」
あ、うん。
変なのは知ってる。
「……昨日、ディアの姿を最初に、見た子」
「ん? 淡島の事か?」
俺のクラスメートであり、唯一気軽に喋れる女の子。
「……あの、子。多分」
「うん」
多分、なんだよ。
随分勿体ぶるじゃねーか。
「……ん。やっぱやめとく。言ってないって事は、隠したがってること? だから」
「いや、言えよ。気になるだろ」
そこまで言ったんなら最後まで話せよ。
ったく。
どいつもこいつも。
人を振り回すだけ振り回しやがって。
釈然としない気持ちで道を進み、通い慣れた校舎が目に入ってきた。
「……リョウスケ、アムがいる」
ぐえっ、ちょ、ちょっと待てディア!
首絞めてる! 苦しいって!
「なんで隠れるんだよお前」
姿は見えないんじゃないのか?
「……わ、わかんない。どうして、良いのか」
わかんないって。
じゃあ俺にはもっとわかんないっての。
校門の前には、朝日を浴びてキラキラと光る金色の髪の女の子だ立っている。
校舎へと流れる生徒達は皆彼女を見てはため息を溢したり、口を半分開けて惚けてたりと反応は様々だが、一際目立っているのは確かだ。
「──────あ! 猟介、おはよーございまーす!」
俺の姿を視認するやいなや、アムは大きく手を振った。
背中に背負っているバッグのせいで更に強調されているその大きなぶるんぶるんもまた、動きに合わせて激しく揺れている。
上と下で2倍も挨拶してくるとはやるじゃねーか。嫌いじゃないよそういうの。
「……ん」
「い、いででで。なんで俺の頬をつねんだよディア」
「……アムを、変な目で見たら。ダメ」
おっと?
またも俺ってば欲望に忠実になっていました?
「……アムは、可愛い。だから見ても、良い。でも変な目は、ヤ」
「あー悪かった悪かった。今度から気をつけますわ」
面倒なお目付役ができちまったなぁ。
「何ブツブツ言ってるんです猟介」
小走りで俺に駆け寄るアム。
朝っぱらから元気だなぁお前は。
この様子だと今んとこ、神剣ディアンドラの力が半減してる事には気づいてないのか?
「早く、早く職員室まで行きましょう猟介! ナンジョウさんからは私と猟介は一緒の教室だと聞いています! 楽しみですね!」
そりゃあ、いろいろ根回ししまくってるからなぁ。
クラスどころか、本来歳が一個違うのに学年まで俺と合わせたからな。
護衛の俺が一緒じゃないと、いろいろと不便だろうし。
「慌てなくてもまだ余裕あんだから、落ち着けって。そんな子供みたいにはしゃがなくても」
「お、落ち着いてますよ失礼な! 私はいつでも冷静です! なにせ、勇者ですから!」
「はいはい。ほら目立ってんぞ」
ちっこい背なもんで、簡単に頭のてっぺんに手を置けてしまう。
ぽんぽんと軽くその頭を叩いて、俺は校舎へとのんびり歩き出した。
「も、もう! 子供扱いしないでください!」
顔を真っ赤にしたアムが、慌てて後を付いてくる。
「……アム、おは、よう」
ぼそりと呟いたディアの言葉は、やっぱりアムには届いていないようだ。
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