第23話 不審者ちゃん、涙目で訴える。③
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「おい」
鏡に向かって声をかける。
寝る前に歯を磨こうと洗面台に来て、ソレを目撃した時は正直ビビった。
「……?」
「いや、お前だよお前」
お前の後ろには誰も居ねーよ。
洗面室の鏡に映る俺の何時もの姿。
寝巻きにしているロンTに、ジャージ。
だけどいつもと違うのは、その背中に真っ白なショートヘアーの幼女がぶら下がっている事。
何一つ身につけて居ないまごう事なきすっぽんぽんのこの幼女は、俺の首にギュウっと抱きつき、全体重をかけてぶら下がっている。
「……ディア?」
自分の顔を指差して、幼女は首を傾げた。
「いや、名前は知らんが。お前そこで何してんだ」
振り向いて確認しても幼女の姿はどこにも無いが、鏡の中では間違いなく俺の首を支点にして全力で張り付いている。
なんだ、これ。
「……ディア、見える?」
「ああ、バッチリ見えてる」
淡島が言ってた女の子って、こいつの事か?
俺の邪眼を持ってしても今の今まで確認できなかったのに、なんでアイツには見えてたんだ?
ていうか、なんで鏡越しでしか見えないんだ?
「……すごい、ねぇ?」
「うん、凄い凄い。いや、何が凄いか知らないけどさ。何やってんのお前」
長身で目つき最悪の俺が全裸の幼女をぶら下げてる姿。
正直犯罪臭が凄いから今すぐ離れて欲しいんだけど。
「……リョウスケのここ。気持ちいい」
おっけー。オッケー俺の聞き方が悪かった。
悪かったからその誤解を招きそうな言い方はやめようか。
いや、この幼女────ディアと自称したコイツの声が他の奴に聞こえているかは知らんが。
「えっと、ディア? お前は、あーっと、何なんだ?」
「……ディアは、ディア。アムにくっついて来た、ディア」
意思の疎通が難しそうだ。
舌ったらずで、言葉足らず。
見た目は小学校一年生ぐらいか?
ソレにしたって発言が幼すぎる気がする。
ん?
ディア?
なんか最近、似た響きの名前を聞いた気が。
「アムにくっついて来たって、どうやって?」
努めて優しく話しかける。
こんぐらいの子供の相手、正直苦手なんだよな。
「……ディアと、アム。いつも一緒。お手手繋いで、いつも一緒」
これ、鏡越しでしか喋れないの不便だな。
目線がふわふわしてて対面してる気がしない。
「……リョウスケ、凄い、ねぇ。アムでも、ディアのこと、見えない。お話、できない、のに」
ふんにゃりと笑って、ディアは両腕に力を込めて俺の首をぎゅうっと力強く抱えた。
「……嬉しい、なぁ。ディア、誰かとおしゃべりしたの。はじめて」
「お、おう」
「ん。今なら、ディアとリョウスケ、繋がれる。かも」
繋がる? え?
あ、いや。俺別に幼女に性的興奮を覚えるほど鬼畜変態ってわけじゃ。
「こつん」
ディアは目を閉じ、俺の頬の額をゴッとぶつけて来た。
こつんなんて可愛らしい擬音じゃねーぞ。
姿は見えないのに、急に感触だけが感じ取れて、正直俺困惑してます。
「……ん、やっぱり、できた。嬉しい。凄い。アムとも、ここまで深く、繋がれない」
やはりふんにゃりとした柔らかい笑みを浮かべて、ディアは俺の首筋に顔を埋めてグリグリと押し込んでくる。
あれ……?
鏡から目を逸らし、肩に視線を移す。
「どうなってんだ。これ」
さっきまで全く見えなかったのに、そこにディアの姿があった。
鏡を介してではなく、実際に肉眼で見て取れる。
ソレと同時に、俺の邪眼が全力で発動した。
こ、この波動にこのパターン。
やっぱり覚えがある。
「ディア、お前、アムにくっついて来たって言ってたよな?」
「……うん、はじめて、お出かけできた。今はアムと一緒じゃない」
「お手手繋いでって、ソレ。右手の事か?」
「……う? ディア、いつもアムの右手に居る。左手は別の子が来る予定だから」
「あ、ああ。えっと、とりあえず自己紹介をもう一回してくれねーか? 俺は猟介。頼花猟介だ」
確信を得るためにそう聞き返すと、全裸の幼女ディアはまた嬉しそうに笑った。
「……ディアは、ディア。太陽神さまがつくった、世界を守る剣。勇者のための武器、今はリョウスケといっしょの、ディアンドラ、だよ?」
異世界の勇者が携える、伝説の剣。
神剣ディアンドラは幼女の形でふんにゃり笑い、また嬉しそうに俺の首筋に顔を埋め出した。
もう、何がどうなってんだよ。あー、頭痛ぇ。
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