第21話 不審者ちゃん、涙目で訴える。①
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「そう、復帰を……」
夕飯時、俺の作った(ここ重要)料理を囲んで、家族三人の団欒となっている。
俺の隣に流華、その正面にお袋。
俺の正面は空席だ。
「ああ、事後承諾になったのは悪いと思ってるんだけど。案件が案件だったもんだからさ」
「いいえ、貴方は何も悪くありません。全てはまた一つ私との約束を破ったあの元クソ旦那のせいです」
後ろで黒髪一本のポニーテールを作ったお袋が、焼き魚を啄ばみつつ答えた。
我がお袋ながら、恐ろしいぐらい若々しい。
出先で姉と間違えられるのなんざ慣れっこだ。
「貴方を復帰させるのは、本来は大学進学まで待つとの約束だったのです。もちろん母に事前に知らせた上で」
「あむあむ」
目を伏せて何かを思い耽るお袋を尻目に、流華は能天気にご飯を美味しそうに咀嚼する。
「ですが、雷火の家に生まれた者として致し方ない部分があります。貴方や流華のメンテナンスもしなければならないので、断れない」
「もぐもぐ。ごっくん」
まぁ、なぁ。
雷火家秘伝の技術の塊である俺と流華は、普通の病院にかかる事が出来ない。
俺はいい。
心臓に仕込まれた霊石が有る限り、どんな重症を負おうが、どんな重篤な病気に罹ろうが時間経過で治癒する様に出来ているから。
だが、流華はそうも行かない。
制作半ばで中断され未完成のままのコイツは、定期的に調整を入れないと歩く事もままならない。
現時点で最新機種である俺に対して、流華は先行試作機。
未だ不安定な機能と解析が足りない呪いとで、誤作動を起こす。
今はまだ大丈夫だが、数年前まではずっと病床に伏したまま寝たきりだった。
不憫だ。
「あーん。あむあむ。これ美味しーねお兄ちゃん!」
あのさ。
ちょっと真面目な話してるんだから、お前も多少は緊張感的なヤツ出せないわけ?
何もりもり食っちゃってるわけ?
いや、作った側からすれば嬉しいんだけどさ。
「流華、貴女も気をつけなさい。兄はこれから忙しくなります。自分の事は自分でする様にしないと、いつまでたっても兄離れ出来ませんよ?」
「いいもん。ルカはずっとお兄ちゃんにぶら下がって甘い汁を啜るって心に固く誓ってるんだから」
良くねぇよ。
自立心や向上心ってのをどこに捨てて来たんだお前。
ちょと兄ちゃん拾ってくるから、詳しい場所教えて?
「それにさー。なんだかんだ言ってお兄ちゃん、全部上手くやるってルカ知ってるもん。信頼してんだよ? これでも」
「今まではそうでしたが、これからは違うかも知れないでしょう? 良いですか? 明日から全裸でウロウロしちゃ駄目ですよ? 宅配のお兄さんとか集金の方々の応対、今度から貴女もするんですから」
お味噌汁を啜りながら、お袋は流華を嗜める。
そうだそうだ。
今までは兄ちゃんが全部やってたんだからな?
これで宅配の奴がお前に変な気起こしたらどーすんだ。
「はぁ? 言っとくけど、ルカに触れたらソイツ殺すから。冗談抜きで」
急に剣呑とした目つきで、ルカは箸を噛む。
「お前さぁ」
ため息をひとつ盛大に吐きながら、俺は食べ終わった自分の茶碗を重ねて持ち、席を立って流し台へと移動する。
「もうそういうのとは縁を切ってんだから、軽い気持ちで『殺す』なんて言うんじゃねーよ馬鹿野郎」
「だって! お兄ちゃんは良いわけ!? 可愛い妹が欲に血迷った悪漢めらに無体に酷い目に合わされても平気なわけ!? ルカの初めてが奪われちゃうんだよ!? そうなる前に、殺すっきゃないよね。うん」
本当に殺せちまうから、タチが悪いんだよ。
俺も、お前もな。
水を流しながら、スポンジに洗剤をつける。
調理中の器材なんかは俺が先に洗ってあるから、食べ終わった食器は自分で洗うのがウチのルールだ。
「そうならない為にも、普段からちゃんとしてろって言ってんだ。服を着るだけの話だろうが」
「えー、めんどくさーい。スースーして気持ちいいんだよ?」
「なんてはしたない事を言ってるんですか。貴女ももうじき中学三年生。もう少し乙女として恥じらいと慎みをですね」
「ママの乙女感古いんだよ。今時のJCはどこもこんなの普通だって」
「JC? 猟介、JCとは?」
おい、ネットスラングを親に説明するとかどう言う拷問なわけ?
俺は絶対言わねーからな!
「話半分で聞き流しとけお袋。どうせロクでもない事だから」
洗い終わった食器を食器カゴに立てて、俺は身につけていたエプロンで水気を拭う。
「そうなんです? 流華! 悪いお友達に流されて変な行いに参加してたら、母は許しませんよ!」
「し、してないよ! 誤解だよママ! お兄ちゃんママに嘘言わないでよ!」
さあな。
お前もたまにはがっつり怒られるべきなんだよ。
いつものらりくらりと説教を躱してないでさ。
「んじゃ、俺は風呂入って歯ぁ磨いて寝るから」
もう今日はヘトヘトだ。
昼寝だって1時間で流華に叩き起こされて、洗濯したり夕飯の支度したりで全然疲れが取れなかった。
ああ、良い夢見れそうな疲労感だぜ。
「あ、そういえば猟介」
「ん?」
リビングから廊下へと続くドアを開く直前に、お袋に呼び止められた。
「母は、食後のデザートに駅前のあのお店のガトーショコラが食べたいです」
「あっ! ルカも! 苺ショートも食べたい!」
「分かったよ買ってくりゃあ良いんだろ!!!」
ちくしょう、似た者親娘め!
玄関に置きっぱなしの財布を乱暴に握りしめ、サンダルをつっかけて俺は外へと飛び出した。
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