第1歩「一歩目がいきなり・・・」

「でさぁ。早速お願いがあるんだけど・・」

「なんでもいって!」

 すごくノリノリだ、まー無理もないか・・愛する弟・・いや【好きな人】からの願いなんて、俺でも、少し照れる。

「引きこもりをやめるにあたって、母さん達に、なんていえばいいか・・きっと怒ってるだろうし・・」

「そうね・・でもね?恭介。あんたは、何かを忘れてるよ。」

「えっ・・?」

「あんたは、引きこもりの前に、大事な家族だよ?」

 なぜだろう。その時の俺の目からは、涙がこぼれた。

「姉ちゃん・・俺・姉ちゃんが・・居てくれてよかった・・!」

 ぎゅっ

「何言ってんの?弟の悩みを聞いて解決させるのも、姉の役目だから!」

 三崎は、恭介を抱きしめながら、泣いていた。これが始まりであり新たな第一歩・・だと思っていた。

 いや、まだ一歩目なんて踏み出していない。そう、まだ、俺にはやることがある。


 そう。これは、一組の姉弟が人生のどん底から、這い上がり、戦い続ける。そんなものがたりだ。


 その日の夜。

 俺は、姉ちゃんの力を借りながら、家族に謝ろうとしていた。

「あのーお母さん?」

「んーなんだい?」

「恭介がさ、引きこもりやめたら、どうする?」

 あまり、聞いてなさそうにしていたが、恭介の名前を聞いた瞬間目の色が変わった。

「そうね、雪が降るかもね。」

 母は、夢を見ているかのように、言った。

「だけど、うれしいよ。出てきたら、そりゃぁ、そうに決まってるでしょ。親はね、あんた達が、思ってるより、あんた達のことを思ってるから。もちろん、お父さんも。」

「そっか・・・」

 わかっていたようでわかってなかった。お母さんたちが本当に私たちのことを、私たちがわからないくらい、考えていてくれたこと。

「どうしたの、急に、恭介が出てくるのなんて、夢のまた夢よ。」

「お母さん、あのね、恭介から話がある、って」

 それを聞いて、母は何の反応もしなかった。

 ガチャ

「母さん・・・」

「恭・・・介・・?」

 母の目には、涙が浮かんでいた。

「謝っても・・謝りきれないけど・・・何も言わず、引きこもってごめんなさい!」

 と、言って頭を下げた。こんな事しても親に心配させた罪は、けして許されることでは無い。と、思っていたのに。

「恭介、頭上げて?」

「え・・?」

 頭を、上げた先には、涙で、グチャグチャになった顔で、どんな真実も受け入れるような目を、こちらに向けている。

「恭介?確かにあなたは、家族に亀裂を、入れるようなことをした。それは、けして許しちゃいけないと思う。」

「本当にごめんなさい。」

 俺は、この言葉しか、出てこなっかった。

「これは、一般的な意見だよ。」

「え・・?」

「実はね、あんたのことを、お父さんと話しあっていたの。ここからは、私たちの意見。正直、あなたが出てきたときは、何も言わないって決めたいたの。お父さんがそうしようって言ったの。それは、お父さんね、昔、あなたと同じで、引きこもっていたの、だけど、がんばって引きこもりから出てのはいいものの、みんなから批判され、挙句の果てには、自分の居場所すらなくなったんだよ。だからあんたに、そんな思いをさせたくないから、お父さんは、せめて恭介の居場所だけでも、あるようにしようっていったの。」

 俺は、泣いていた。こんなのずるいよ父さん・・

「だからね。普通では。今まで何してたの。とか、いつまで引きこもってるつもり。とか、言うのかもしれないけど。」

 母は、泣いていた。いや、俺のために泣いてくれた俺なんかのために、そして、母は、一番言って欲しいことをいってくれた。

「お帰り、恭介。」


「母さん・・ただいま。」


「恭介・・おめでとう・・・」


 こうして、俺、佐藤恭介の物語が始まる。

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