第4話特殊スキルは楽じゃ無い

今日も朝食の用意が俺の分だけ無かったので外に出る事にした。

「兄さま行ってらっしゃい。」ロドスが無邪気に送り出してくれる。

弟は無邪気だ、自分が満腹で何も考えていない、だからこいつに怒っても仕方ないがこんなんで勇者って言うものもどうかと思うが、まあまだ子供だけどな。

空腹のままどこに行こうか考えていた、餓死したくない、死ぬ前の嫌な記憶が蘇る。

とぼとぼ歩いていると見慣れた中年のおじさんが仕事の準備をしていた。

「ねえナスタおじさん、僕お手伝いしたいな。」指をもじもじさせて話しかけた。

うん、子供らしい態度にもだいぶん板について来たな。

「シクロ様いいんですかい、庶民の手伝いなんかなさって。」

「しってるでしょ、ぼくダメな子なんだ。」・・グー・・、タイミング良くお腹が鳴った。

俺は朝飯を木こりのナスタにたかる事にした、この人はうちの事情に詳しいもんな。

ナスタはゴツい顔で僅かに微笑んだ「仕事の前になにか食べますか、大したものはありませんがね、それにしても坊ちゃんは3歳にしてはしっかりしてるんですなぁ。」

「ありがとう。」だいぶん子供っぽくしてたつもりなのに足りなかったか、まあ仕方ないさ中身は大人だしな。

「シクロ坊ちゃん!。」向こうで痩せぎすの女が手を振っている、この村では太っている人間は少ない、漁師や猟師なんかは比較的に栄養状態が良いみたいだが。

「ナスタさんのおばさんこんにちわ。」軽く会釈をする、こんな事でもこの世界で俺が身につけたスキルだ、前世では出来なかったのだ、他人を見ると固まって声も出なかったので小学校ではそれで虐められた。

ナスタの奥さんは周りを見廻して、誰も見ていないのを確認し俺に小さな包みを握らせてくれた、「ほら行きなさい、仕事は良いから。」耳許で囁いた、とても気遣いができる人だ。

勇者の子供が充分な食事が出来ないなんて恥ずかしいからね。

ズボンのポケットに急いでその包みをねじ込むと、微妙な表情の笑顔のナスタ夫婦に会釈して俺は村の外れのその外の果樹園の端に駆けていった、そこは老木のため放棄された木もまばらな場所だったが、お気に入りの場所だった、何かの魔法なのか僅かな実が季節や種類も構わず成るので子供一人食べるおやつとしては最適だから。

まだ青い林檎の実を取り、ポケットの包みを取り出し発酵していない固いパンを噛み始めると「シクロずるい、また一人で来てる。」後ろからメリナの声がする、いつの間にか背後に廻られたと言うか、俺が鈍いだけなんだが。

俺は2歳のときこの場所を見つけたのに、その1ヶ月後にはメリナに見つかってしまったのだ。

そうして今では空腹の時はここに来るのがパターンになった。

「ねえシクロ、今日はここに来ちゃいけないって大人達が言ってたよ、帰ろうよ。」嬉しそうな声が一変して怯えた様な小声になった。

ふーん、何か危険があるのだろうか、だが俺の空腹も危険な状態だった。

急いで食べれば問題ないだろうと自分で作った水筒に残っている水で固いパンを無理やり流し込んだ。

「ゲフっゲフ。」やっぱり固い、死にそうだがなんとか全部飲み込んだ。

「大丈夫なの?。」心配そうに俺の顔を覗き込む、もしも同い年の子供なら赤面するほどの可愛い子が顔を寄せている状況であるが、俺は子供に心配されたくは無い。

「さあ行こうか、心配されないうちに。」俺がメリナの手を繋ぐと、メリナが真っ赤になった。

「あうう。」何だか変な声を出している。

「ううう。」?

「がるう。」・・こ、これは・・メリナの声じゃ無い。

見たくは無いがこのまま走り去るのは多分危険だろう、ゆっくりと振り返った、横のメリナを見ると目を瞑って固まっている。

俺たちの背後には小さな魔獣が一匹鋭い牙を光らせていた、小さいといえどもドーベルマン程度の大きさがある、飛びかかられれば子供二人くらいひとたまりも無いだろう。

「メリナ、そのままで良いから俺の声の方に火の魔法が出せるかい、いや出してくれ全力で。」

「でも、でも。」泣きそうな声を出している、ギュッと繋いだ手を握り直す。

「大丈夫、メリナなら出来る、いけと言ったら頼むよ、信じてるからね。」メリナは震えながらもコクリと頷いた。

俺は手を離すと魔獣の方に走った、「転ぶなよ自分」「いけメリナ!。」

作戦なんか無かった、運動神経が普通人並みで魔法が使えなきゃ勝ち目なんか無いが、せめて子供は助けたかっただけだ、意外と強い火の魔法が身体を包む、燃え盛る俺の突入で魔獣が怯む、「熱っ」俺はそのままの勢いで走り込み魔獣にしがみついた、暴れる魔獣の牙と爪が身体に食い込み切り裂く激痛が走る「っっっっ」痛みで言葉にならない。

何故か俺は意識を失わなかった、どのくらい時間が過ぎたか判らなかったが、肉の焼ける臭いが酷くなるとともに魔獣がおとなしくなった気がした。

これで俺の死は無駄じゃ無かったな、子供は助けたし。

自分への褒め言葉を考えているといきなり水が掛けられて、まだ燃えていた俺の体の火が消えた。

「ニートくん、大したもんだな。」この声は、ハンターのベルさん?。

「シクロ、シクロ、ごめんなさい、ごめんなさいよおお。」メリナが泣きじゃくっている。

俺はいつの間にか固く閉じていた目を開ける、「いやこれは無いな。」呟いた。服は全て焼け落ちていたが体には火傷も傷もなかったのだ。

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