第7話 攻略対象になった勇者様
「勇者のあなたが、こんなことしては、だめでしょう? ねぇ?」
一瞬キョトンとした表情を見せた勇者様……、しかし次の瞬間くすくすと笑いだした。
まるで私がおかしなことでも言ったかのように、その碧眼の瞳をきらめかせ、私を見下ろしながら、こう言うのだ。
「本当にあなたはいけない人だ。私はあのとき、言ったはずだ……あなたを見守ると、それなのに、あなたは、私がいないのをいいことに、何人の男をたぶらかしてきたのか知っていますか? あなたをつけ狙う、そういった輩を処分するのに、どれだけ苦労したのか、あなたには分かりますか、私はそれが許せない」
――アルバート伯爵家では今夜、アスカの誕生パーティが開かれていた。
美しくも清楚な容貌と品の良さ、さらに人当たりがよいためかアスカの交友関係は広がり、また、純血種のハイエルフであるため、崇拝者がかなり多い。
その中で注目されたのが、エルネスト・アーベル伯爵だった。
――それがエルネストである。
その彼が私の誕生パーティに姿をみせたのだ。
様々なパーティに出席するエルネストだが、お目にかかれるとしたら、大貴族が主催する、やや格式ばったパーティぐらいだ。今回のような個人的な催し、しかも女性の誕生パーティに出るなど、今までのエルネストにはなかった行動だった。今回に限ってなぜ出席したのか分からない。
私の誕生パーティーの席が、はじまった時、先ほどまで、にこやかに、かつ
義父がどうして、あんな表情をしたのか分からなかった。
今起こっている事態、私の推測が正しければ……
あの
この事態をどう乗り切ればいいのか、私の味方は誰もいない。
私は、必死に考えた、でも何も思いつかない。今起こっている事態に頭がついていけない。
両手首は頭の上で押さえられ、さらに、もう片方の空いた手で私のナイトドレスのボタンを器用に外していく。そんなエルネストを半ば呆然と眺めていた。頭の中は疑問符で、いっぱいだった。
攻略対象にエルネストなんて、いなかった。興味本位にのぞいた説明書にもそんなキャラはいなかった。だから、安心しきっていた。
「こんなのうそ……よ」
「現実ですよ」
私の服のボタンを楽しそうにはずしていくエルネスト、私の小さな呟きを拾いながら、そう答えた。
手が止まる気配は全くない。
「どうして、どうして、あなたが……こんなことを、嘘でしょ?」
「あなたが私の運命の人だから、貴方の身体にしっかり教えてあげますよ、こうしてね」
私の上半身が外気にさらされた。頭を持ち上げ見てみると、袖まであったボタン、全てが外されていた。そして、はだけた
「や、やめてください!!」
「もう、待てない、ずっとこうなる事を、望んでいたんだ」
「う、うそっ」
「貴女を、私のものにすると決めた。やっと私の願いがかなう」
エルネストはそう言いって私の胸に片手をすっと滑らせた。
彼の手がわたしの胸を捕らえた。
その感触に私は……
ぴくんっと感じてしまう。
「やぁ、だめっ、だ、だれか……」
こ、この紐は、
ふと、自分の側に呼び紐があることに気付いた。
使用人を呼ぶための紐、これを引っ張れば、きっと、誰かが駆けつけてくれる。だけど、エルネストを、いや、勇者を止めれる者がいるのだろうか。今の彼はいつもの彼ではない。獣のようなものだ。そう考えると私はぞっとした。
「ふっ、考えている通りですよ。私の邪魔をする者は…… たとえ誰であろうと容赦しません、それに大丈夫ですよ。結界をはりましたから、あなたが信仰する大精霊ですら入ってこれませんから、あなたは本当にイケナイ人だ、今から愛しあうと言うのに、よそ見をするだなんて――!」
「やあっ!」
胸の先っぽに痛みと刺激が走ってくる。
私は思わず声をあげてしまう。
な、なにが、起こっているの?
慌てふためく私をよそにエルネストは人差し指と親指で、わたしの……胸の先端、小さな蕾をぐりぐりと楽しそうにつまみはじめた。
「や、やだっ」
いじられ続ける蕾……、快感による刺激が何度も私を襲う。私の蕾が勃起し固くなってきた。だけど、エルネストはやめない。容赦なく私を弄ぶ。
「あっ、ああっ、だ、だめ!!」
彼が刺激する度に背中にそわそわしたものが走ってく。私は自分の反応に驚きを隠せないでいた。
な、なに、こんなの初めて。
お腹や腰が疼いて、むずむず、そわそわして、足の先までピリピリする。
ち、ちからが抜けて、この感じはなに?
私は得体のしれない感覚に贖うことができず、焦りの色を浮かべてしまう。何か言葉を発っしなければ私はこのまま流されてしまうのではないだろうか。わたしは必死に言葉で抵抗する。
「い、いきなり、夜這いだなんて! あなたがそんな人だとは思わなかった。まずは、お話ししてから、ダンスに誘って、デート、いえ、求愛するものじゃないですか! あなたは紳士的じゃありません! 大嫌いです。見損ないました!」
私は彼に強く訴えかけた。
エルネストを止めるには、もう良心に訴えるしか方法がなかった。だけど、その罵倒は私の予想を遥かに超えて、エルネストに衝撃を与えてしまったようだ。逆の意味で……
エルネストから一瞬、笑みが消え伏せ……
数舜、沈黙し、あとに訪れたのは妖艶な魅力あふれる微笑。
だが、その目は笑っていなかった。
「あなたがそれを言いますか」
私は彼の触れてはいけない何かに触れてしまったようだ。
「では、アスカ、貴女に尋ねたい。今月、パーティに何回出席されましたか?」
「た、たしか、5回ぐらい? だったでしょうか?」
彼の変わりように戸惑いながらも、私は、そう答えた。
「ええ、そうですね。正解です。そして、私はそのパーティにすべて出席しました。しかもですよ、何度も、何度も、あなたにダンスを申し込んだのです。そう紳士的な接触を何度も試みようとしたのです。なのに無視されましたがね。なら……私が逆に聞きたい。何度も無視される、そのような状況でどうやって貴女に求愛することができるのですか?」
「ええっと……そ、それは……ですね」
私が出席しているパーティは身内によるもの、あとは、確か、あれですよね。身分の高い方々の断れなかったパーティぐらい? そのいずれかのパーティでもエルネストに声をかけられた記憶なんてないような……って、いたの?
今回が初めてではなかった?
「パーティ以外でも、いつだったか、貴女が街中で、通行人とぶつかって、その拍子に鞄から財布を落としたことがありませんでしたか。私がそれを拾ってさしあげて、貴女に手渡しましたよね。それに怪我もされていましたから、魔法で治してさしあげたのですが、覚えていませんか? そうですよね。覚えていませんよね。貴女は礼だけ述べて、さっさと走り去っていきましたから」
「えっ?」
「貴女の行きつけのケーキ屋でも、私は声をかけたことがあります。ところが、食べるのに夢中な貴女は、私の呼びかけを散々無視しましたよね。それだけじゃありません、貴方は……」
綺麗な笑顔を作りながら、エルネストは語り続ける。
……こ、これってまずくない。
私の背中に冷たい汗が流れてきた。
街中で誰かに財布を拾ってもらったことがあった。確かにそうだ。私は、はっきりと覚えている。
まさか、その人がエルネストだったなんて……
あのときの、わたしは、チーズケーキの有名店チロルの看板に釘付けになっていた。礼だけ言って、早足でそこを離れてしまったのだった。今思いだすと失礼な態度であったことは否定できない。
だって、限定100個しかないんだよ。急がないとなくなっちゃうし。それに、エルネストに声をかけられたことなんて、あったっけ? まったくもって、記憶にない。
それもそのはず、私はケーキを食べると、何も見えなくなってしまう。なにこれ、すっごくおいしいんですけど、幸せ、もう何も考えられない、という感じで……
ごめんなさい。彼はおそらく嘘を言ってはいないだろう。自分はエルネストの呼びかけを散々無視していたことになる。そういえば今日のパーティでも――
「アスカ嬢、私と踊っていただけませんか」
「ああっ!!」
あれは、前から食べたいと思っていた、ショコラケーキ、シェフのダニエルさんの傑作のケーキだ。はやくいかないとなくなっちゃうかも、ダニエルさん、まってぇ!!
私に手を差し伸べた人がいたような……いないような、ま、まさか……
エルネストは、やんわりとした表情で見つめてくる。
私はその時のことを思い出し、顔が引きつるのを感じた。
今思うとあの声の主は、エルネストだ。
またまた無視してしまったのかしら、あははは。
そう、私は、まるっきり相手もせず、ケーキに夢中になっていた。
「思い出したようですね。それでは改めて聞かせてもらいましょう。私を無視するあなたにどうやって求愛することができますか?」
「……そ、それは、あははは、無理ですよね。ごめんなさい」
視線を泳がせる私にエルネストは目を細めて笑った。
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