第5話 運命の人

 side-エルネスト 


 エルフの少女は悲しみのどん底に突き落とされていた。


 笑えば、きっと美しいだろうに……君は何を悲しんでいる。


 彼女に尋ねてみよう。


 私は彼女に声をかけようとした。


「……さようなら」


 彼女は何を思ったのか、ダガーを握りしめ喉元へと近づけた。自らの命を絶とうとしているのだ。


「なっ!!」


 彼女は死ぬつもりなのか。


 私は無我夢中で魔法を唱えた。


『眠れ!!』


「……うっ……」


 私の眠りの魔法によって彼女は睡魔に襲われた。


 彼女の手から刃がこぼれ落ちた。


 岩にもたれるようにして、彼女は深い眠りへと誘われた。


「よく眠っている。まるで天使のようだ」


 エルフは大精霊を信仰し、辺境の森の奥地に住まうという、人里まで降る事はめったにないはずだ。何かの使命を授かったのか。


 なら大精霊よりも上位の存在、精霊神様に尋ねてみよう。


『精霊神よ、このエルフの少女はどのような使命を与えられたのですか?』


『うん? ああ、アスカさんだよね。私もね、変態女神にゲームの説明書のようなものを渡されただけで、わかんないよぉ?』


 彼女の名前はアスカというのか。


『そうだね、今、見てみよっか? どれどれ、うわぁ、なにこれ、酷いよぉ、こんなことしちゃうの、ひやぁ、こんなの絶対だめだよ、鞭とか、あそこにピアスなんて残酷すぎだよ。この白いのって、ひゃああ、まさか、これってR18の世界じゃ。いけないよぉ、わたしの愛する世界は全年齢対象基準なんだよぉ? こんなの絶対にゆるせないよぉ!! あの変態女神、私に喧嘩うってるの? でも、おかしいなぁ、運命のフラグがルートが、はずれちゃってる。説明書だとアスカさんは隣国の王子の部下に囚われて、あれ、どうしてこの世界にあなたがいるの? なぜ私の世界の勇者がここに出てくるの? まさか、わたしの管理している世界とリンクした? ハッキングされたの? 一体だれが、もしもし、あの、モニカ様? ケーキのバイキングで忙しい? ひどいよ、私だけ除け者にして、もう、知らない。わたし、帰る』


 さきほどから、なにを言っているのかさっぱり、分からない。


「精霊神よ」


 再度、精霊神に尋ねてみたが、返答がないようだ。精霊神の話からして彼女の使命は酷く残酷なもののようだ。


 きっと使命を果たすことが出来ず、責任を感じたのだろう。だから大精霊の地で謝罪の意味をこめて自らの命を断とうとしたのだろう。


 それにしても、潔い魂をもった少女だ。醜く腐ったあの貴族どもなら、試練を放棄し責任をなすりつけ未練がましく生き残ることだろう。


「まさか、君は!!」


 たしか……


『嘆き悲しむ者、その者こそが運命の人となりえん。あれ、寝ちゃってるよ。もう、起きてよぉ!! えーと、魔王に囚われている、お姫様を救いにいってね。もしもし、聞いてる? あとタンスの中にこん棒と布の服と50Gがあるから、装備していくんだよ?』


☆☆☆


『嘆き悲しむ者、その者こそが運命の人となりえん』


 まさか、精霊神が言っていた運命の人とは……


 きっとそうだ。私の勇者としての勘がそう言っている。彼女が私の……


☆☆☆


side-アスカ


「ここは、どこ?」


 草原にいたはずだよね。それに、わたし、生きてる? 


 草原ではなく、天蓋ベッドの中で私は横たわっていた。


 どうして私はここにいるんだろう? 


 あと……顔が近いんですけど。


 私の隣に添い寝している、青いつなぎのような服(鎧の下に着こんだパワードスーツ)を着こんだイイ男はだれ?


「目が覚めたのですね。私の名前はエルネスト。あなたは私の運命の人だ。私にあなたを、見守らせていただけませんか?」


「はぁ? どういうこと?」


 いきなり、イイ男に告白されてしまった。


 あの、わたし、今から凌辱されちゃうの?


 こうして平凡だった私の日常が終わりを告げた。

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