第2話 エルフな私

 自動ドアーをくぐってゲームセンターの中を覗いてみると、大きなステージがあった。声援というより悲鳴が聞こえているような気がするんだけど?


 周囲に【ヒト】が大勢集まっていた。私に続いて日本人形ような可愛らしい容姿をした黒髪の幼女さんが入ってきた。彼女は白のワンピースを着ていて、ランドセルをしょっていた。胸元には「せいれいしん」ひまわりのデザインの名札をつけていた。


 他の人も少し変わってる? 天使のコスプレをしている人が、たくさんいるみたいだね。何かのイベントでも始まるのかな。

 

何かに誘われるようにステージ向かって足を運ぶ。すると、奥の方で、なにやら、イベントが始まりだした。ナニコレ?


「このくそじじいいいいいい!!」


 白髭の爺さんと六枚の翼を羽ばたかせた金髪の女性が殴り合っていた。彼らがすれ違うたびに突風が巻き起こってるんですけど、ここって、バトル漫画の世界? わたし、吹き飛ばされそうなんですけど?


「許さないわ、わたくしのエミリアちゃんに餌付けをするだなんて、今度は藁人形にして、そのハゲ頭に釘を打ち込んでやろうかしら?」


「ただ、ミカンをあげただけじゃろ、昔はもっと頭がまともじゃった気がするんじゃが、どこで教育を間違えたのかのう、昔は、お爺様って呼んでくれたのに、実に残念になったものじゃ」


「だまらっしゃい!!」


 金髪の女性がすべてを凍り付かせるような殺気を放ちだした。周囲のヒトが次々と気を失い倒れていく。


 な、なに、これ? さ、さむい。急激に温度が下がったような。足が……がくがくして……立ってられない。もう、だめ……


 私の何かが、魂が、身体から全て抜けていく。


 た、たすけて、


「ふむ、ここまでにするのじゃ。そこな女子おなごが殺気で参っておるようじゃ。このままでは彼女が死んでしまう。それに、モニカよ。さすがに、わしが寝てておる間に人形にするのはよろしくないぞ。しかもゲームセンターのプライズにするなぞ。わし、泣きそうだったんじゃ、誰もわしを取ってくれなくて……」


「今度は、アレと同じように本にしてやろうかしら、それはそうと、人間をここに呼び寄せて、あなたは何を考えているのかしら?」


「決まっておるぞい。わしの実験、いや、創造した世界に、彼女を、ご招待しようと思ったんじゃ。いやのう、どんな新しい世界を作ろうかと迷っておったんじゃが、わしのポストにこんな物が入っておったんじゃ。考えるのも面倒だし、これをもとに世界を創造しようと思うんじゃが、だかのう、たいへんなことに、うっかり、主人公を創造するのを忘れてしまってのう。そこで白羽の矢が立ったのが、これの持ち主である彼女じゃ。柱になってもらおうと思っておる」


 さっきの魂が抜けるような感覚、一体、私の身体になにが起こったの? うーん、さっきから、この人たちは何を言っているのかな。って、さっき、私が捨てたエロゲー、なぜこの爺さんが持ってんの? なに、あれ? 


 ステージに場違いなコタツが置いてあった。しかもコタツから足のようなものが、ぶらんぶらんと出てていた。


「エミリアちゃん、コタツの中で寝てはダメよ」 


 ひょっこりとコタツから女の子の顔が現れた。私は目を擦る。ブルーのロングヘア―に青い瞳、なぜか、彼女の頭部には大きなネコのミミが生えていた。


 ピクピク動いてるし、まさかそれって本物?


 かわいいというより神秘的な女の子だった。 


「嫌なのですよ。ここは、私のパーソナルスペースなのです。私を追い出そうとしても無駄なのです。聖域を侵すものには死を与えてやるのです。殺されたくなかったら、素直にここは引き下がるがいいのです」


 すごく残念な子だと思ってしまった。


「にゃああ、アイアンクローはやめて、ごめんなさい。……ぐげっ!」


 女の子は聖域のコタツから引きだされ、ぐったりとしていた。首がありえない方向に曲がっているのだけど、気のせいだと思いたい。


「可哀そうに死んでしまったではないか」


「彼女は神として、私が手取り足取り体の隅々まで教えないとダメなんです。はぁはぁ」


 そして――


 ぐったりとして倒れていた、いや、死んでいた少女が目を覚まし、私に目を向けた。


「うーん、ところで、さっきから、ここにいやがる、耳のなが~い、女性は誰なのですか?」


 耳のなが~い? それって私のこと? 


 学生鞄から小さなポシェットを取り出し、手鏡を手に取った。覗いてみると……


 これは、これは、なんといえばいいのだろうか。ゲームやアニメで活躍されているエルフさんじゃないですか。それにどこかで見たことあるような……ついさっき……たしかエロゲーの表紙の……イケメン王子に凌辱されている主人公さん。あははは、そんなわけないよね。


 とりあえず笑ってみた。なぜか、同じ動作をする金髪碧眼のエルフさんが映っていた。さらに、ウィンクしてみた。やっぱり同じ動作をしている。すごい、すごいよ、弟よ、お前の大好きな、エルフさんがここにいるよ?


『これの持ち主である彼女じゃ。柱をやってもらおうと思っておる』


「あはは、まさか……そんな……これは夢よ」


 すぅーっと血の気が引いていく。あまりのショックで、わたしは気絶した。


「気絶してしまったようじゃ」


「どうします?」


「もうすぐ、三ツ星ホテルでケーキのバイキングが始まるのです」


「それはいけません。そうですね。あとは暇を持て余している彼女に管理を任せましょう。そこのあなた、働きなさい」


 金髪の女性は、黒髪の幼女を名指しした。


「え、えええっ!! わたし、勇者を導くお仕事があるのに、他にも管理をしている世界があるんだよ、これ以上は、働きたくないよぉ!!」


 私はこうして異世界へと旅立った。エロゲーの主人公として……

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