後日譚①「ケンカップルのクリスマス」

 私達のクリスマスは、思いの外静かで平穏なものだった。聖なる夜には喧嘩も起きないということだろうか。

「ただいま。クリスマスケーキ買ってきたよ」

 片手に携えたそれをテーブルに置きながら帰宅を伝えると、先に帰宅していた愛優はキッチンから返事をする。

「ああ、ありがとう。夕食しか準備してなかったから、ちょうど良かった」

 キッチンからはなんとも言えないご馳走の美味しい匂いが漂い、私の空腹感を刺激する。しかし良かった。ケーキが被って多くならないか心配だったが、杞憂だったようだ。むしろちょうど夕食もご馳走となると、とても充実した夜となる。

「なんか手伝う?」

 いつもより気分も上々な私は、普段と違って積極的に手伝う姿勢を見せる。愛優も嫌がったりすることなく頼ってくれて、とても心地よい。

「おかげで夕食の準備が早く済んだよ。ありがとね、芽衣」

 夕食を並べ終えると、愛優が微笑みながらそう言う。あまりに急な感謝の言葉に、私は顔を逸らしてしまう。

「私からも、こんなご馳走、ありがとう」

 少し落ち着いたら、向き直ってこちらからの感謝も伝える。そしたら、私と同じように愛優も恥じらうように顔を逸らした。

「なんか、この時間がクリスマスプレゼントみたいだね。たまには、こういうのもいい」

 珍しいケンカのないひとときを、私達はめいっぱい楽しんだ。

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