第10話「もう一度」

「終わり、か……うん、ごめん。愛優が言うなら、そうだね、終わりにしよう」

 これで、お別れなのか。どうして、もっと早く気づけなかったのだろう。どうして、素直に好意を表せなかったのだろう。どうして……

「め、芽衣、泣いてるの?」

 愛優が心配そうに話すのを聞いて、指先で目元に触れると、冷たい液体が手を伝っていった。私、泣いてるんだ。

「ごめん……引き止めたくはないんだけど、私、やっぱり苦しい」

 先輩なのに、歳上なのに、情けないな。こんな姿見せたくないな。そう思っても、込み上げる思いを、涙を、抑えられない。

「全く、早とちりで、本当に、放っておけない人。終わりにするのは喧嘩だよ」

 年甲斐も無く泣いてしまう私を抱きしめ、愛優は耳元で囁く。対して私は、その言葉を理解できず、止まらない涙をそのままに硬直する。

「私も仲直りしたかったんだ。ずっと意地張っててごめん。もう一度、一緒に過ごしたい」

 愛優は、そう言って私から離れる。喧嘩は終わり。もう一度、一緒に過ごしたい。愛優の口からその言葉を聞けて、私は今度は嬉しさに涙を流す。

「お詫びの品まであるんだから、泣かないでよ。まだ、想いを伝えきれてないの」

 愛優の言葉に涙を拭いて互いを見合う。愛優の手には、二膳の箸があった。

「付き合ってください。芽衣先輩」

 真剣に言って、愛優は二膳の箸の内、可愛らしいデザインの箸を私に手渡す。愛優の手には、少し大きく、落ち着いたデザインの箸がある。所謂夫婦箸なのだろう。

 全く、喧嘩は終わりだって? する気満々のくせに、素直じゃないのはどっちだ。

「夫は先輩の私でしょ。生意気に夫側を選ばないでよ」

 涙でグチャグチャな顔で、私はニヤつきを抑えきれずにそう、喧嘩の煽りをしてやった。

「可愛く泣きじゃくる人には嫁側がお似合いだから、そっちを受け取ってよ」

 そう、煽りに返す愛優も、口角は上に上がっていた。

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