第9話「親の優しさ、子の強さ」

「すみません、今から事細かに説明しますから、あのですね」

 今からでも暁美のフォローをしなくてはと、慌てて話し始めるが、暁美の母は私の口を、片手を上げて制止する。

「それで、言いたい事は終わりなの」

 暁美をじっと見つめる目はとても強く、私がなにか口出しをできるような状況ではなかった。

「うん、母さんには悪いけど、少なくとも血の繋がった子は見せられないと思う」

 暁美もまた、母を強い意志の篭った目で見る。互いに、譲れない心情があるのだろう。

 しかし、喧嘩に発展することは、なかった。

「そう、分かった。そこまで言うなら、私は何も文句はないわ」

 暁美の母は、そう言って笑ってしまったのだ。私も暁美も、あっけらかんとしてしまい、部屋には母親の笑い声だけが響く。

「別に、反対しに来たわけじゃないのよ。そりゃあ、孫が見れないのは残念だし、遊びとか、ままごとな関係だったら連れ帰ろうとしたんだけど。本気みたいでよかった」

 暁美の母は、朗らかにそう言って、私の方を見る。夜宵さんといったかしら、と呼びかけられると、つい背筋が伸びて、話を聞く姿勢になる。

「いい人じゃない。うちの暁美をよろしくね。誑かしてるなら、ただじゃ置かないけど」

「は、はい!」

 最後の一言は別として、概ね認めていただけたことに、その場で安堵してしまう。親への結婚前の挨拶をする人は、こんな気持ちなんだろうか。

 そうして、暁美の母は席を立ち、帰る支度をする。私と暁美は二人でそれを送った。

「今度うちにも来なさい。お父さんは、私が認めたら相手は誰でも良いって言ってたから、きっと大丈夫よ」

 そう言って、帰っていってしまった。なんだか、色々と勢いのある人だったなと、二人で顔を見合せ苦笑する。

「今度はお父さんに挨拶しなきゃね」

 それはまた、心労が増えそうだなと、私はまた苦笑した。

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