第8話「変えられない想い」

「今日は突然押しかけてごめんなさいね」

 休日、私と暁美、そして暁美の母の都合が合ったので、すぐに話し合いの場は持たれた。それはもう、電話で一度話したらあまりにも勢いのある会話にペースを持っていかれたほどだ。

「いえいえ、大事な話ですから。わざわざ来てもらってすみません」

 リビングにそのまま案内すると、ガチガチに緊張した暁美が棒立ちしている。やれやれ、どうにかして解せないだろうか。

「いい部屋ですね。清潔だし、充分な広さもあって」

 そう言ってリビングを見渡すと、暁美の母は用意した席に腰を下ろす。まだ若々しく、あどけなさの残る容姿は、親子というより姉妹を思わせた。

「とりあえず、話しましょうか」

 ただ一言、そう言っただけで従うほかないような気がしたのは、やはり母としての貫禄というか、力というか。やはりこの人は母親なのだなと、理解する。

「私達の、関係ですか」

 あなたたちの関係を詳しく聞かせて欲しいと、電話した時から言っていたので、その事に戸惑いはしなかった。ただ、心の準備は出来ていたが、話す準備は出来ていない。何から話せばいいだろうか。

「私、お母さんがなんて言っても、別れないから。夜宵とは本気で付き合ってるし、できることなら結婚もしたい。そんな想い、言われて変えられないんだよ。だから、別れろとは、言わないで」

 私が考えているうちに、暁美が早口にまくし立てる。ダメだと止めようと思ったが、動く前には全てを言い終えていた。

 それでは、あの日の私と同じじゃないか。自分の気持ちだけを一方的に押し付けたら、怒ることは目に見えているのに、その場で冷静さを保てない。昔の自分を見ているようで、言葉への嬉しさ以上に、焦りが私の心を満たした。

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