第8話「私が伸ばす腕」
「待って」
私は不意に、深く頭を下げるハルの肩に手を伸ばす。掴んで、目を合わす。
自分でも予想外だった。もうどうしようもないと思ってたし、私には反論する権利も無いと思っていた。それでも、私の腕は彼女に伸びた。
「明季さん、これ以上なんだっていうんですか。私はもう、からかわないって言ってるじゃないですか」
ハルのなげやりな態度と、逸らされる視線に、私の腕はその力を強めた。違う、私が求めてるのは、謝罪でも贖罪でもない。私は……
「私は、ハルが好き。たとえ流された感情だとしても、操られた行為だとしても、私はハルの事が好きになってしまった。だから、私の気持ちにちゃんと向き合って」
初めて、ハルの目を正視した。今まで、翻弄されて、からかわれて、ついぞ正面から堂々と見せてはくれなかったハルの思いと、向き合う為に、正視する。
「正直に言うと、いつかの約束なんて覚えてない。それは謝る。でも、今の私はこんなに好きなの。それじゃ、ダメなの?」
これ程の感情の奔流が、今までの人生にあっただろうか。自分で制御が効かないことに、混乱するかと思えば、どうしてだろう、どうして、私は今一番清々しいのだろう。
「私は、全部伝えた。次は、ハルが私に聞かせて。ハルの、本当の想いを」
今は、彼女の感情の奔流が、待ち遠しい。
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