第7話「嘘でもいいから」
約束。そんなこともあったなと、せめてすぐに思い出せれば良かったのだが、生憎私は、ハルからその詳細を明かされるまで、心当たりのひとつもなかったのだから、私は薄情なのかもしれない。
「ごめんね、忘れてて。そのくせ、勝手に気が変わって結ばれようなんて、都合がよかった」
ハルといる部屋がやけに居心地が悪い。ただただ沈黙を重ねる。それも、嫌な沈黙だ。落ち着かない、そんな沈黙。
「いえ、そういうつもりで言ったわけじゃ、ありませんから」
ハルはずっと敬語のままで、以前のような余裕も、私をたぶらかすような仕草も、一度も仕掛けてこない。私もまた、謝ってばかりだ。
「嘘でもいいから、私を好きになってください。なんて、言うつもりだったんです」
ハルは俯いて言う。
「でも、嘘って、想像以上に辛いですね」
嘘じゃない。そう、すぐに言えたら良かったのに。私は、今の気持ちに嘘がないと、断言できない。ハルに丸め込まれて、手篭めにされて。その気持ちが、自分の本意だと、自信を持って言えるのかと問われれば、答えはNoだった。
「ごめんなさい。今まで、勝手な態度で混乱させて」
何も言えない。優しい言葉も、謝罪の否定も、慰めも、私には、何も言う権利がなかった。私のせいで、こうなったのに、どうしてなにか声をかけれるだろう。
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