第8話「足踏みだけじゃ」

 しかしどうして、自覚した想いは歯止めが効かないのだろう。忘れているからと黙っていようにも、私の心は悶々として足踏みだけでいることを許してくれない。雪花が欲しい。抱きしめて独り占めしたい。雪花だって、私に少なからず好意があるはずなのだ。

 いっそ、言ってしまおうか。でも、それで雪花に嫌われたら? 今までの全てが、冗談だったら?

「ダメだな……足踏みだけじゃ」

 新しい気持ちで学校に行き、そして帰って一息。むしろ私は、悩み続けていた。遠慮なく駆けていたカレンダーの日付が、あの日以来途端に遅く感じている。足踏みしているだけでは何も変わらない。そう思っているのに、進むこともまた、難しいのだ。進んだ先に、ハッピーエンドがあるのはドラマだけで、そんな同性の愛が、私の前にころがっていると、そんな風には思えない。

 結局、雪花に甘え続けている。雪花の無垢で悪意のないであろう言動に、浅はかな心を満たすのだ。

「進め、恋する乙女、なんてね。思い出したんだ。頑張ってみないと」

 足踏みしている思考に区切りをつけて、ずっと未来を見据える。

「ありがとう! なっちゃん」

 心のどこかで、幼い雪花がそう言った気がした。まだだよ。まだ、決めただけなんだから。

「せっちゃん、今行くよ」

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