第7話「花束いっぱいの愛情を……暁美×月美」

「あの、お花の注文いいですか」

 夜宵との同棲記念日に渡すための花束を注文しに、私は初めて花屋に来た。花束を渡すということがいまいち恥ずかしくて出来なかったので、こうして注文するのは今も気恥しい。

「はーい、ちょっと待ってください」

 店員が返事をしてこちらに来るが、その声に自然と警戒をしてしまう。どこかで聞き覚えがあるが、すぐには思い出せない。

「お待たせしました。どのような用事でのご注文ですか」

 エプロン姿で出迎えたその面影に、私はハッとする。そうだ、この人とは夜宵とデートをしていた時に会った。えっと、誰だったか。

「えっと、パートナーの同棲記念日、です」

 警戒しすぎたが故に、声がどもってしまう。店員は訝しげにするが、すぐに私に気付いたようで、目を見開いた。

「分かりました。じゃあ、夜宵先輩の好きな花、選んでおきますね」

 すぐに優しく微笑んで、花を選びに奥に行ってしまう。着いてきてくださいと呼ばれて、奥に行くと、きれいな花が幾つも並んでいた。

「夜宵って、どんな花が好きなんですか?」

 自分が知らない夜宵の事を、その人が知らないのが我慢出来ず、選んで見せる前に、自分から聞き出してしまう。ヤキモチ妬きな自分が、少し醜く見えた。

「百合ですかね。私みたいだって、聞いた時は自画自賛だと思ってましたよ。でも、そういう事だったんですね」

 カラフルな百合を見繕って、花束が出来上がる。百合って、白だけじゃなかったんだ。と、少しびっくりした。

「花言葉を気にする人って多いですけど、先輩なら大丈夫だと思います」

 出来上がった花束を確認用に私に見せながら、彼女はそう言った。それも、知らなかったな。この人は、先輩とどんな時間を過ごしてたんだろう。でも、なんだかそれ以上敵意は芽生えなかった。無垢な表情からか、花束の美しさからか、どうしてかは、よくわからなかった。

「先輩は、花が好きですから」

 言葉ではなく、花が好き。人が付けたレッテルではなく、自分が見て感じたものが好き。その夜宵の感性を、これまた初めて知った。でも、それはとても嬉しかった。人に飾られない私が好きだと、言ってくれたということだから。

「ありがとうございます。きっと、よろこんでくれます」

 芽生えた敵意は、実る前に摘む事ができた。

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