第7話「繋がらない電話」

 あれから数日、私と愛優の部屋から、愛優の気配が消えた。初めに彼女の声が無いことに気付き、次に彼女の弁当を食べられないことに気付き、次に彼女の服を洗うことが無くなったことに気付き、最後に彼女の気配が消えた事に気付いた。初めはうっかり名前を呼ぶこともあったが、今はもう、そんなことも無くなった。

 大学の講義には出ているらしいし、出ていって2日もしたら愛優の実家から電話がかかってきたことで、実家から通っている事も聞いている。愛優は、何事も無く日常を続けていた。

「家から通えるなら、寮に来なければ良かったのに」

 当然距離の問題などもあるだろうが、当たりようのないむしゃくしゃした気持ちを、誰も居ない自室で、虚空に吐露している。

 愛優は今どうしているだろう。たまに私から愛優のスマホに連絡を入れるが、一度も繋がったことは無い。いつも、ただひたすらコール音が続き、いずれ途切れる。

 愛優からかかってきたことは一度もない。私だけが、愛優の影を追い続けているのだろうか。だとしたら、まるで片想いだ。

「好きだったのかな。愛優の事」

 もしもそうなら、私は髄分と不器用が過ぎる。気持ちを伝えられないどころか、無茶苦茶な八つ当たりで愛優を傷つけてしまった。その報いだとするなら、充分に効果はてきめんだった。

 どうしたら、私は許されるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る