第6話「変われない私達」

「芽衣! 弁当箱は水洗いくらいはしておいてって言ったじゃん!」

「愛優だって服にティッシュ入れっぱなしだった。自分のこと棚にあげないで!」

 なんちゃってデートな一件以来、私達はむしろ喧嘩をする機会が増えた。しかしそこに以前のような心からの敵意はない。これが私達なりの距離感で、それなりに心地いいのだ。

「ホント、素直じゃない奴」

 しかしある日、そうしていつものように喧嘩をしてると、愛優はポツリと小さな声で呟く。素直じゃない、何故かその言葉だけはいつものようには受け取れなかった。

「素直じゃないって何、そんなのお互い様じゃん」

 何に怒っているのか、私自身あまり分かっていない。具体的な落ち度を言い合う日頃の喧嘩とは違い、抽象的な舌禍だったからか。或いは、その言葉がそのまま愛優にも言えたからか、それすらも分からない。

「お互いちょっとでもあれから素直になれたらきっとこんな喧嘩してないよ」

 突如としてまくし立て始める私の態度の変化に、愛優の顔が困惑へと染まっていく。ああ、困らせてるな。そう、ぼんやりと考える俯瞰的な自分がいるが、そんな事を気にしてはいられなかった。

「どうせ私達は変われない。ずっと喧嘩して、ずっと目の敵なんだよ。デートだとか恋人だとか、何考えてたんだろうね」

 あの日、私は確かに楽しかったのに、自分で自分の言葉に傷付けられる。衝動的な自分のトゲが、いつもよりずっと痛い。

「ごめん、芽衣がそこまで嫌だとは思ってなかった」

 私の口撃を浴びた後、ただそれだけ言い残して愛優は出ていった。私はその影を追うこともせず、その場に立ち尽くす。

 その時だけは、まるで自分の部屋が牢屋のように思えた。

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